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August 08, 2004

キリギリス

この空間が消える前に、写真を撮っておこう。そう思った。

僕の育ったのは都営住宅なんだけれど、もう築60年近くに
なる古い建物で、ようやく建て直しの決定がされ、今年から
少しづつ壊されることになった。

今では祖母が暮らしているだけだし、新しく建てられる建物に
はもう入らないと思うので、僕とその場所とのつながりは、建物
が壊されたときに終わりになると思う。
新しく建つ高層の建物は、同じその空間にあっても、僕が小さい
ときから遊んだその空間の記憶はもう伝えないだろう。

「そう考えれば、来年までで、この空間が閉ざされる。」

窓から部屋に吹き込む、涼しい風に吹かれてうたた寝をしている
祖母の横顔を見ていたら、そのシンプルな事実があらためて思い
起こされた。

すでに、住民の半数は他の場所に引越しをしているので、夜とも
なれば窓に灯る明りも少なく、しんとした寂しさがあたりを包む。
思えば夏の夜も涼しい風が南側の窓から、北側に開いた窓に
向け吹き通り、冷房が欲しいと思ったこともなかった。

そうした夏休みに、祖母はキリギリスをとりに毎日僕を連れ出した。
なぜか夏休みにはキリギリスを捕らえに行かなければならなかった。
それがこの家の夏休みの過ごし方だったのだ。
淺川の川沿いに茂るうっそうとした草むらに、捕虫網を持った
祖母に、虫かごをかかえた僕が続く。
キリギリスを捕まえる祖母の腕は本当に鮮やかで僕はいつも感心し
て見守っていたものだ。

捕らえたキリギリスは、夏中その声をこの小さな部屋に響かせて
くれた。やがて彼らの声が途切れ途切れになったころ、夏が
終わり秋が来る。その繰り返しだった。

祖母はそのころのことを覚えているのだろうか。小さくなった体
が、ゆっくりと風にあわせて息をする様子を見ながら思う。

思えば昔から、夏でも風がよく通る場所だったのだ。

君はこんな気持のよい風を知っているだろうか。

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