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October 20, 2005

板門店に行くことにした----切手と非道者の思い出

hanmon

当時はおそらく板門店は遠い遠い場所だったであろう1960年代。

父はその頃ある新聞社に勤めていたので、何度か38度線を訪れていた。
幾度かのそうした取材旅行の後、僕が祖父母と暮らしていた家に立ち寄ることがあった。
父はトーンをあげてその取材旅行の土産話を語り、宙に熱気を何時間も撒き散らした。
自分の息子をろくに構いもせず、優に1年、2年。時には3年も顔を出さないことすらあるこの「非道者」に祖父母は眉をひそめていたが、僕はそうした父の「自慢話」が嫌ではなかった。

きっと目を輝かして聴いていた。と思う。

やがて、父は韓国の珍しい形や色の切手を貼ったアルバムを出して、説明を始めた。
僕は珍しい外国の切手に夢中になって覗き込んだ。あの頃の多くの小学生と同様に、僕も切手を集めていたのである。

しかし父は、一通り説明を終えるとその切手のアルバムをまたしまいこんだ。あっけにとられる僕。

「これはXXXXX(父と暮らしている腹違いの僕の弟)への土産だから」

と悪びれもせず言うと、また38度線の話だ。

とことん「わからぬ奴」であった。

そんな父に祖父母は怒り、この子(僕)のことも考えてやれと、くどくどと父を責め始める。すると父は逃げるように帰り支度を始めて、そのまままた1年も姿を見せなくなったりするのだった。

それなのに、父の3度目の妻だった札幌の母は、父の死後に、1人で板門店を訪ねたと、妹の結婚式のときに聞いた。でも僕にはそれは意外でもなんでもなかった。

父と時間を過ごした「僕たち」にとって、板門店はある特別な場所だった。そしてそれは、世界情勢がどうとか、平和がどうとか、緊張の国境だとかそういうことではなく、あのどうしようもない自分勝手をやり尽くして、7年前に足早に去って逝った、父のイメージと結びついているのである。

それを札幌の母親は知っている。そして僕もだ。

小泉首相閣下が、自らの信念に従って、またも靖国参拝に勤しまれている今日この頃、よりによって、ふとしたことから、僕は来週26日から、日本人にとっては、良くない雰囲気が立ち込めているという、ソウルに行くことになった。
ソウル行きが決まった時すぐに、僕は板門店に行こうと思った。僕の板門店は父のイメージであり、あの弟に横からさらわれた、美しい記念切手のイメージがある。そこがたぶん、普通の人とはだいぶ違っているかもしれないが、とにかく僕は、1日空いた時間を利用して、ソウルから半日観光で板門店を訪れることができる、現地のツアーを探した。

で、探してきたのがこの旅行会社。

板門店ツアー以外に「西部戦線DMZ(非武装地帯)ツアー」というのがあり、北朝鮮がひそかに掘った南進のためのトンネルを見学できること、また「北朝鮮亡命者とのDMZツアー」というのもあり、「北朝鮮亡命者と一緒に西部戦線DMZを観光するイベント観光商品」などと不思議な言葉が並んでいる。

いずれもロッテホテルからツアーが出ている。板門店ツアーは料金70,000ウォン。

「板門店観光は訪問統制日(日・祝日等)を除き、毎日08:50分小公洞ロッテホテル二階 panmunjom Co-Op Centerを出発する定例商品で、半日観光商品である。」

注意書によれば、アフガニスタン、パキスタン、キューバ、イラク、イラン、北朝鮮人民共和国、スーダン共和国、シリア、リビアの国民はこのツアーに参加することはできない。

また外国人は容易にツアーに参加できるが、韓国人は亡命の可能性があることなどから、厳重な身元チェックが行われるため、ほとんど見学には行けないのだと言う。板門店はソウルの北方約60km。目と鼻の先にありながら、韓国人にはやはりそう近い場所ではないのである。

世界でも数少なくなった平時と緊張を保ちながらも観光地化されている板門店が不思議なところなら、非道の父の所業を知りながらも、次々とその場所に向かおうとする札幌の母も、僕もこれまた、不思議な連中ではある。

とにかく、見てくることにするよ。

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