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November 26, 2005

板門店レポート(終章)------心に残る「緊張」と「滑稽」

_180

ロッテホテルは出発前と同じような活気に包まれていた。
観光客やビジネスマン、そして韓流ツアーに出かけてきたと思われる日本人女性客の一団。今体験してきた現実がまだ夢の中のようである。それほど「あそこ」は激しく異界であったのである。

先に書いたように、ソウルから板門店までは北に約62km、東京に置き換えるとおよそ熊谷あたりまでの距離に匹敵する。ソウルはその至近距離に、軍事境界線を持ち世界でも有数の24時間厳戒体制エリアを抱えているのである。
ミョンドンの繁華街を歩く分には、そうした現実は全く感じることは出来ず、渋谷や池袋を歩くのと全く変らないとさえ思えるのだが、そこには厳然として、日本と異なる現実がある。

週末のソウルには、休暇をとったと思われる若い軍人たちが軍服のままガールフレンドとデートしている風景も多く見られた。
周知の通り韓国は徴兵制が敷かれており、男子は皆19歳になると徴兵検査を受ける。入隊する時期は19歳から29歳までの間から選ぶことができるということだ。
高校を卒業してからか、大学2年を終えてから入隊するケースが多いそうである。兵役の期間は場合によって異なるが大体陸軍で26ヶ月、海軍で28ヶ月、空軍で30ヶ月だということである。板門店に配置される兵士は、その中でも抜群のエリートであり、体格はもとより、武道のブラックベルト以上を取得しているなど、抜きん出た資質が求められる。
それにしても軍事境界線付近で緊張した面持ちで警戒態勢に付いている彼らが、ツアーの若い女性の前で相好を崩していたのは印象的だった。週末にソウル市内で恋人とデートをしているあどけない様子の若者そのものであることが、あらためて思い起こされた。

緊張地域にありながら、観光客を受け入れて宣伝活動が盛んに(といってもこうした小規模なツアーしかないのだが)行われている、厳戒下で兵士と記念写真をとるなどの、どこか間の抜けた観光地化が行われているのも、また板門店の不思議な一面ではある。
誤解を恐れずに言うなら、「冗談のようで冗談ではない」。本物の「戦地」でありながら、それでもやはりどこか滑稽味がある。今ソウルに戻ってくるとそんな複雑な感想が街の喧騒の中で胸によみがえる。

そうした複雑な思いを持ったまま東京に帰ってきて1ケ月ほどしたころ、あのカメラマンのFさんから突然メールがきた。饒舌に板門店を語ってくれながらも、なぜかあまり自分の身分などについて語りたがらなかったFさんだが、何かあったときのためにと、メールアドレスだけは交換して別れていたのである。

メールにはこう書かれていた。

「BigBanさん、今晩は。板門店観光の際にお世話になりましたFでございます。
お変わりありませんか?早くも2週間が経ちましたね。
じつは、日本テレビのニュースプラスワンの読売テレビ関西ローカルで昨日より北朝鮮特集をしており本日、板門店取材を放送しておりました。
あの日北の板門閣の屋上にテレビカメラがあったのを覚えてますか?
彼らは、読売テレビの関連のクルーで放送の中で会談場に入る私とBigBanさんを含め当時の参加者が大写しになっておりました。
もしかして今夜の日テレの今日の出来事の中で放送されるかもしれませんので時間がありましたらみてください。
私は、これから夜勤に出ますので録画していくつもりです。
寒くなりつつありますが、風邪など引かないように元気にお過ごしくださいませ。では、また。」

「大写し?」

北の板門閣には確かにあのとき、テレビカメラがあった。しかし、それは北側が絶えず南の観光客を撮影し続けているというガイドの説明であり、それを信じて僕たちは冷淡な態度をとり続けたのであったはずだ。しかしそれが日本のテレビの取材だった?しかも顔まで映されているのだろうか?

割り切れない思いで、その夜の日テレの「今日の出来事」を観たが、そんな場面はオンエアされなかった。Fさんにメールを出して相互に確認したところ、やはり関東圏でのオンエアーは確認できなかったが、関西圏では確かにFさんの言うとおり、読売テレビでオンエアがなされたということだった。この映像を入手できないかと、Fさんを含めあちこちあたったのだが、終に確認することはできなかった。
(※実際には中国人のクルーが、日本人のディレクターに指揮されて撮影を行ったということのようである。)
どうも最初のFさんの「大写し」という表現は大げさだったようで、実際には遠景で微かに我々の姿が映っていただけのようであったが、意外なエピソードであった。

hanmon99
(おそらくこのカメラ?)
※写真はいずれもクリックすると拡大します。

そして、何かこのエピソードも、現代の板門店の「緊張」と「滑稽」を象徴している出来事のように思えたのである。そしておそらくこの「緊張」と「滑稽」は何も板門店に限ったことではない、世界の軍事紛争地のほとんどが、あるいは軍事自体が抱えている不可避の二律背反なのかもしれないとも思う。

私たちがもしも、戦争で死んでいくとすれば、それは深刻なことには違いないが、100%の緊張下で死んでいくとは限らない。元来軍事衝突自体が、人間の愚かさを外在化させてしまっている「愚かな」所業であることは間違いなく、そうした環境の中に否応なく巻き込まれて死んでいく人があるとすれば、それはたまらなく悲劇であるのだが、同時にどこか喜劇の様相すら漂わせてしまうことがあるのではないか。恐ろしいことではあるのだが、馬鹿馬鹿しさがあるからこその「戦争」である。
この一点は無念であるけれども、不条理ではあるけれども、私たちの生きている空間の中に、そして現代の世界にべったりとまとわりついている不快な二律背反である。それはあの軍事境界線の向こう側。北朝鮮の惨状を想像して見ればわかる。

もっとも、僕が日本人としてだからこそ、こうした客観的なことがいえるのであるが、韓国の人々にしてみれば、もちろんこれは「喜劇」どころの騒ぎではない。
韓国の人々を理解できない日本人と、日本人を理解できない韓国人の中で、我らは互いに苦しんでいるわけだけれども、もしも今、東京から62Km北に世界有数の数(数だけだが)の軍事勢力が駐留し、東京に照準を合わせていることを想像したらどうか。我らはどのような気分で新宿を、渋谷を、歩くことになるのであろうか。それを想像できるのであれば、我らの韓国への視線にも何か変ってくる要素があるのではないか。

板門店を見てきて僕が実感できたことがあるとすれば、この不快で複雑な二律背反の現場に立ってその空気を感じることが出来たということかもしれない。もしも関心がある方がおられたら、一度ぜひこのツアーを体験してみることをお勧めする。

長くだらだらと書いてきた板門店のレポートはこのへんで終わりにする。もっと早い時期にまとめたかったが、ずいぶんと遅くなってしまった。全てを読んでくれた人がどれだけいるかわからないが、このあたりでまとめとしようと思う。

ちなみにあの「馬鹿げた」土産物である、軍事境界線の鉄条網は僕の部屋の隅に飾ってあの日の記憶を留めている。もちろん、悲劇と喜劇の二律背反はこの鉄条網にも漂っているのである。

【参考リンク】

●板門店レポート(1)----変り始める空気
●板門店レポート(2)----敵の行動によっては死亡する可能性があります
●板門店レポート(3)----JSA内へ
●板門店レポート(4)----軍事境界領域の村、大成洞
●板門店レポート(5)----奥の軍人の背後には
●板門店レポート(6)----若い兵士たち
●板門店レポート(7)------臨津閣の「世界一危険な」コンビニ。そしてソウルへ

※以下は現地からのライブ書き込み

 

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Comments

お帰りなさい、というのも今さらな感じですね。
帰国されてからだいぶ経ちますものね。
板門店レポート、毎回続きを待ちわびながら
全部読ませていただきました。
そんな読者は、私のきっとほかにも大勢いらっしゃることと思います。

その場の空気を肌で感じた人にしか書けないことって、あるんですよね。BigBang!さんが(お名前の表記はこっちが正しいんでしたね)感じてこられた空気を、少しだけでしょうが共有させていただけた気がします。

お久しぶりです。
読んでいただいていましたか。それをお知らせいただいただけでも感謝。なんだかだらだら書いてしまいましたからね。
なおこさんの「こちらとあちら」。この記事とはずいぶんとテーマは違いますけれど、このシリーズを書き終えたときに読んで、何か少し共有する気持ちを感じました。

初めまして。
レポート(1)でTBして頂いたhirokiです。
遅くなりましたが、TBありがとうございます。

僕は板門店には行けずに第3トンネルや都羅山駅へ行ったのですがやはりソウルとは空気が違いましたね。
臨津閣に入る道にコンクリートで作ったトンネルのようなもの(説明下手でゴメンナサイ)の存在意味を聞いてやはりまだ戦時下なのかな、と思ってしまいました。
北が攻めてきた時にそれを爆破して道をふさぐそうです。

僕自身、行きたい気持ちと共に、これを観光地化していいのか、というのに疑問を持ちます。

こんにちは。
レポートお疲れ様でした。

割とのんきにずっと読んでいたのですが、
いきなり飛び込んできた、
「敵の行動によっては死亡する可能性」で、
僕まで緊張してしまいました(笑)

そのためか、終章のまとめの説得力がすごい。

口だけじゃなく、行動しないと
身に纏えないものがあるんだなぁと、
当然のことを再認識した今日この頃です。


追伸
 とりあえず教えていただいた件、
一応のレスポンスをしたのですが、
適切であったかどうか。

 再レスポンスを頂いているようで、
何かそれにもレスをしようかと思いつつ、
とくにリンクも名前も出てないので、
レスしない方がいいのかなと逡巡中です。

こんばんは。hirokiさん。留学中でいらっしゃるのですね。同じツアー会社が第三トンネルのツアーも行っているので、興味を感じていました。
韓国戦争の折(こういう言い方が身についてしまった)北の戦車に猛攻撃されて南に追いやられたので、あちこちに「戦車爆破用のトンネルのようなもの」、確かにありましたね。
写真撮りたかったけれど、撮れる雰囲気じゃなかったのあきらめました。
ですが、現代にあってはこれもいささか滑稽。爆破してとめられるような戦車で勝敗がつく時代ではないですからね。もう。
12月には日本に一時帰国されるとか。いい年末年始を過ごされますことを。


今晩は。お久しぶりです。読んでいただいたようですね。

>口だけじゃなく、行動しないと
身に纏えないものがあるんだなぁと、
当然のことを再認識した今日この頃です。

それは確かにそうですね。でも全ての事象を「行動で」体験することもまた無理ですから、何かを体験できたときにはしっかり人に(湾曲や誇張なく)伝えておくことも重要なのではないかと思います。もちろん自分が伝えてもらうことも(こっちのほうが当然多い)ありますしね。

追伸に関しては・・ボクシングファンさんの判断におまかせします。こちらからこの件に関してどうこうはコメントする立場にはありません。私はどちらの言うこともわかるという、今回については、あまり自分の好まない立場ですね。

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