SNS

My Photo

BooksBooks

無料ブログはココログ

« 富田メモ・昭和天皇発言をどう読むか | Main | 地平線近くの太陽--「歓びを歌にのせて」を観て »

July 26, 2006

「空中ブランコ」-----伊良部が救う患者たち

Branco_1
同じ著者の「イン・ザ・プール」で、「驚異の精神科医・伊良部」にガツンと来てしまって読み進む。これが伊良部シリーズ2作目。伊良部ますます絶好調である。伊良部は、伊良部総合病院の薄汚い地下の精神科に勤務する。
僕的には「喪黒福造」をどーんと明るくしたような、しかしひどく人間離れした存在。この病院の跡取りとの噂もあるが勘当状態だとも。とにかく金はどんと持っているらしい。この伊良部の元に訪ねて来る様々な形で精神のバランスを崩した人物と、奇想天外な伊良部の対応が筋となる連作だが、表題の「空中ブランコ」はサーカスで空中ブランコが飛べなくなる男の話。これも良いが、尖端恐怖症になってしまったヤクザの話「ハリネズミ」も泣ける。

伊良部のところに来る人物は誰も、「昨日までできたこと」が突然出来なくなる。それぞれの社会的立場や職業は異なっても、出来ない理由はみなどこか「無理をしてしまっている」点が共通。真の自分を押し殺して、何かに囚われ、何かの強迫観念に囚われて、それぞれ何でもないことができなくなってしまっている。

おそらく現代の社会というのがそういう辛さを、人に強いる社会なのであり、いつの間にかどうにもこうにも、にっちもさっちもいかないところに人を追い込み、脅迫概念で固め尽くしてしまう。それはヤクザでも、作家でも、スポーツ選手でも。

通常の精神科医であれば、その患者の悩みにじっくりと向き合い、カウンセリングを長期間にわたって施していくのだろうが、この伊良部という男は一体何者なのか。とんでもない男である。

患者の話を聴くどころか、アドバイスはどれも破天荒でどうしようもない。法を犯すことも命の危険も平気。へらへらへらと一線を越える。

それなのになぜか患者たちが、伊良部に救われていくというところがとても面白いわけであるが、実は「どこにもいない伊良部」のような人間を、皆心の中で探しているのではないかとも思う。何しろ伊良部は何も悩まない。思ったことはすぐに実行する。人の評判どころか、ヤクザも命の危険も伊良部は恐れない。見かけはデブの醜い「喪黒」であるが、実態は現実離れしたスーパーマンなのである。

現実の世界の中で、私たちは決して「伊良部」に出会うことはないだろうが、その像を追いかけ、その「どこにもいない人間像」の中に、自分の「病」の解決への微かな「希望のあり方」のようなものを投影することは出来る。恐らく作者の奥田英朗自身が、自分の「病」をも投影し、普遍的に人が追い求めている、あるべき人のかたちを、このとんでもない精神科医に造形したのだろう。


「バカやってんじゃねーよ、イラブー!」
などと読んでいる間に何度も笑える小説だから苦しいときお奨め。

BBさんにも読ませたい。

(あオレか)

新作の「町長選挙」も早く読んでみたい。

« 富田メモ・昭和天皇発言をどう読むか | Main | 地平線近くの太陽--「歓びを歌にのせて」を観て »

Comments

Post a comment

(Not displayed with comment.)

TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/28156/11101557

Listed below are links to weblogs that reference 「空中ブランコ」-----伊良部が救う患者たち:

« 富田メモ・昭和天皇発言をどう読むか | Main | 地平線近くの太陽--「歓びを歌にのせて」を観て »

-