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September 18, 2006

葵上とブログ世界と闇を巡る断章

20060902jpg 

能を多く見てきたことは以前にも書いたが、能「葵上」の鑑賞は数え切れないほどの数に及ぶ。能でも屈指の人気曲であるため、それは各所で繰り返し繰り返し演じられるのだが、この演目は、一方での大衆的人気曲「羽衣」の清清しさに比べて、何とも陰湿な人の業の深さを表現している。

六条御息所は、教養豊かで理知的、かつては源氏と交わす和歌やもてなしにも典雅な気品が匂い立ち、源氏の心をとらえた女性である一方で、源氏より七歳年上であることなどから、いつかは源氏が自分のもとから去っていくだろうと不安を抱え、若く美しい正妻・葵上に対する嫉妬がつのる。それでも高貴な身の上、はしたない行動には出られず、じっと耐えている。そんな六条御息所を打ちのめしたのは、賀茂の斎院の御禊(ごけい)の折、都大路を行列する斎院と光源氏らの姿を一目見ようと出立した六条御息所の車が、後から来た葵上の車に押しやられ、打ち払われた事件。散々の恥ずかしめを受け、その上源氏の晴れ姿を見ることも出来なかった。この屈辱の経験が深い恨みとなって、生霊(前ジテ)となって葵上に取りつき苦しめることになる。その行為は自分では押しとどめることができないが、恥ずかしく悲しく感じている。
薬石効なく、ついに修験者が呼ばれ祈祷が始まると、生霊は怒り、鬼の姿(後ジテ)で現われるが、最後は般若の姿のまま、法力によって浄化される場面で終わる。

狂言「月見座頭」が、人の静かなる秘めたる邪悪を描いているとすれば、(参照:「月見座頭」-------青く冷たい空間と人の二面性)「葵上」に描かれているのは、人間が他の人間存在に対して持つ永遠の執着、押さえきれない呪詛を、陰的に描いたものであるだろう。人が人を恨むその心は、死して霊となってなって生者に執するならまだわかるが、生きていながら他者に恐ろしくも執着し、呪いの言葉を吐きかける、わが身の醜さがわかる故の醜さ、おぞましさは、幾度舞台を見ても、心の奥底を寒くさせる。

ある意味で美しくもおぞましいこの演目に、我等が時代を超えて惹かれ続けてきた理由はどこにあるのだろうか。その想像は、私やあなたの自我を超えて、自ずと到達するところに到する。つまり他者への執着と悪意であり、他者への止めようの無い嫉妬と呪詛であるが、もはやそれらを語るに聖域はなく、色恋の領域ではなくても、これに類した心根を生涯一度も抱いたことの無い者は、この世に皆無であろうと私は想像する。

時勢が移り今日、電磁的に打たれた「怨念」がブログ世界を縦横に飛び交う時代になっても、人の心の根本の性に変化は起こり得るべくもなく、また人間性の進歩は、ムーアの法則のように革新されるべくもなく、Web2.0とは何のことはない。無数の葵上や六条にその表現の場を広げさせたのみとも言えるのではないか。

それほどに時を重ねれば重ねるほど、我等のこのキーボードを打つ手は穢れに穢れていると言えるのではないか。

一体なぜ、我等はこれほどまでに他者の思念の宇宙に焦れ、苦しみ互いの欠損に不毛の呪詛を描き、それをしかもこのように醜く投げつけあうのであろうか。夜更けに考え巡らしてくれば、六条を終には追い払う法力を持つ修験者のスーパーパワーすらもまた我等の時代には与えられていないことの悲しみに気づき、これも彼も、生きてこその辛苦であるとはわかりながらも、空しく、馬鹿馬鹿しく、そしてあの苛烈な「葵上」の舞台の鬼気とした美しさが思われてならない。

おのが前にある漆黒の闇は、一瞬両手に触れると見えたところから、さらに一層深くなっていくのである。

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Comments

私もたまにゆきますが、能の醍醐味は不条理と浄化なんでしょうか。
モノノケが明け方の空に去ってゆく。我執と共に。
これは月の満ち欠けにも似ています。
何かを赦すことみたいですね。

#あれこれありますが、まあ、水は流れるということで。

>あれこれありますが、まあ、水は流れるということで。

御意。各々が信じるところを行けばいいでしょう。それで何がしの問題もありません。

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