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February 08, 2007

3人の物語

1日忙しくてパソコンを見ることも出来なかった。夕方になって、ようやく車を止めて、携帯でブログを読んでいた。夕べから今日にかけて、ずいぶんなことになっているなあと溜息をついたときに、電話が入った。

見慣れない番号。出てみると、か細い声の女性の声。

「あの・・・・XXX社長さんでしょうか?」
「はい?・・そうですが」
「私、Eの母親です」

E。

3年ほど前に、僕の会社で働いていた。プログラマーになるべく、頑張っていたが、ちょっとしたことで人間関係に問題が起き、退職した。胸騒ぎがする。

「こういうことをお聞きするのは心苦しいんですが、Eと親しかった・・Sさんの連絡先をご存じないでしょうか?」

Sも、僕の会社で働いていた。Eを僕の会社に連れてきたプログラマーだ。Eは彼の親友だった。というか、親友以上で、彼らは僕の会社に来る前から、もう1人の友人と3人で小さな会社を作っていた。会社を作ったときには、3人ともまだ学生だった。会社と言っても3人のサークルのようなものだ。売上はほとんどなかったが、売り上げよりも夢というか、得体の知れない「明日」みたいなものに引かれて集まっている3人だった。金銭的な成功を夢見ていたという月並みなものではなく、もっと文学サークルがITをたまたまやっているという様子の集団だった。

2人が僕の会社に来てからも、この小さな集団はそのまま存続していた。プログラマーとして優秀だったSは、早くに結婚して幼い子供がいたが、EはSの子を自分の子供のように可愛がっていた。九州の実家に帰っても、Sの子供に会いたくてすぐに東京へ戻ってくるほどだった。

だが、ちょっとしたことで、彼らの関係は崩れた。SとEの間に亀裂が生まれたのだ。プログラマーとして先行していたSは、友人ではあるがアシスタントをしていたEの飲み込みの悪さに、時に激しくEを面前で罵った。Eは笑って流していたのだが、蓄積したのだろう。我が強く、自意識が激しく攻撃的だったSは、他の2名の前に絶対君主のように君臨していた。それでいてそのエネルギーは、商売の方に向かうのではなかった。言わばそれは、行き先不明のエネルギーだった。Eはある時、突然退社してSとの連絡を一切絶った。Sは怒り狂ったが、どうにもならなかった。

Eが去ってからしばらくしてSも僕の会社を去り、僕と3人との縁は切れた。だから現在の連絡先といわれても、当時のメールアドレスくらいしか知らない。

「会社におられたのはずいぶん前のことですし・・・」

「どうしても、Sさんと連絡をつけたいんです・・勝手を申し上げて申し訳ないのですが」

「あの・・Eさんは・・」

もしかして、と言葉を詰まらせる僕に、母親は言った。

「Eは亡くなりました」

「え・・・・あの・・失礼ですが、ご病気か何かですか?」

「はい・・」

そのとき、僕の頭に「自殺」という2文字が突然ことんと降りた。

Eは、実際僕のところを去るときには、かなり精神が不安定になっていた。プログラマーが行方不明になったりすることは、この世界珍しいことではないが、Eは正確にはプログラマーではない。時に難解な数学を解くのが唯一の趣味といった具合で、親しい友人は、あの小集団の2人以外には僕は知らない。ただ、そんなEも、会社を退社してからしばらくして、女性と暮らし始めたという話を聞いたことがあった。あの女性の名前は・・・何だったろうか。

いや、自殺と決め付けるのはまだ早い。そんなことを考えていると、母親が続けた。

「荷物も、1週間くらい前に返ってきたばかりでして・・お友達にどんな人がいるかまるでっわかりませんで・・ただ、御社の名前と、SさんとXさん(と母親は3人組の最後の1人の名前を告げた)しか、わからなくて。」

でも、どちらにも連絡がつかないのだという。荷物・・・。あるいは孤独に部屋の中で死んだか。

「S君のメールアドレスくらいしかわかりません・・それももう変わっているかもしれないし」

「・・・そうですか」

メールアドレスにはあまり母親は反応を示さない。メールで連絡をつけることに思いが及ばないのだろう。僕は、件の女性のことは、伏せておくことにした。実際、伝えようと思っても、彼女の名前も出てこないのだ。それにしても・・・と僕は、引っかかる点を口にした。

「あの・・S君たちに連絡をつけたいとおっしゃるのは・・E君が亡くなったことを連絡されようとしているのですよね?」

馬鹿みたいな質問だったが、母親が一瞬言葉を詰まらせる気配が伝わった。

「ええ・・そうですが・・Sさんにはお聞きしたいこともあって・・」

「・・わかりました。調べてみて、何かわかることがあったら、ご連絡します。お役に立てないかもしれませんが」

「・・・・・はい」

「あの・・何と言っていいのかわかりませんが、どうか・・どうか、お力を落とされませんよう・・」

「・・・ありがとうございます」

礼を言って、母親が電話を切った後、僕はすぐに昔の彼らの会社のサイトに、ノートパソコンからアクセスした。サイトは表示されている。ということは、彼らのドメインもWebサーバも生きているということだから、ドメインのメールも生きている可能性が高い。Sの携帯電話の番号ももうわからなくなっているのだ。

僕は、S宛に、Eが亡くなったこと、母親がSに連絡をとりたがっているから、電話してほしいという短いメールを書いて、パソコンから顔をあげた。車の窓からコンビニが見える。若いカップルが袋を抱えて出て行く。彼らを照らす青白い光の中で、Sと訪ねたEの部屋を思い出す。

部屋には誰もいなくて、ずいぶんと散らかっていた。Eが帰ってきている様子はあったが、生活感というのとは遠い、荒廃した雰囲気が立ち込めていた。

彼らの小集団の物語が終わったんだと思った。僕に比べてずいぶん年の若い3人だった。いや、小集団どころか、Eという一人の人物の命も終わってしまった。母親の電話があった瞬間に、僕はEが亡くなったのではないかと思ったのだ。なぜかそう思わせるような、命のか細さが、Eにはあった。

「死ぬと終わるんだな」

と思った。人の物語は死ぬと終わる。つまり、人が生きている限りは物語は続く、終わらないということだ。昨日から今日にかけて見ていたネットの風景に重ねて僕はそんなことを思った。そんなに簡単に終わりはやってこないんだよ。

無駄かもしれないとわかっていても、それが本当に無駄なことかどうかは、そもそもいつわかるんだろうか。おそらく、人が、そして自分が生きている限りはあらゆるその人の物語が続くんだろう。それに結論が出るとすれば、その命が途絶えたときだ。命が途絶えたときに初めて人の物語は終わる。途中で何かの結論が出たように見えても、あるいは頓挫したように見えても、それは言わば途中でしかない。だから、無駄であるとわかっても、生きている限りは、足を前に出すんだろうな、とぼんやりと思った。無駄であっても、足は前に出すしかない。あきらめるのは、もう足が動かせなくなった時でいいではないか、とも思う。引きずるように重くても、それでも足は前に出していかなければならない。いつかその足は止まるのだから。あなたも、僕も。

Sからはまだメールの返事がない。

【2/11 追記】
この記事を書いた翌日、Sからメールに返事があった。とても驚いたこと、知らせてもらってありがたかったこと、お母さんにも連絡が取れたということが短めに記されていた。とても参っていることも。

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Comments

BBさん、これフィクションですよね‥‥。

ども。え?フィクションではありませんが。現実感がないですか?

SとEはいいけど3人目がXってのは。

いや、それは全然気がつかなかった・・・。実際の名前のイニシャルをとったりはしていないので。。それにしてもね。何だろ。

全然事情はわからないけど、従業員が死亡して、身内や友人からの問いやなにかに説明したりするって作業は一昨年の暮れに経験した。事務的にこなしたつもりだったけど、意外なくらいこちらの精神状態に大きな影響があった。あたりまえといえばあたりまえなんだけど。情報があまりない遺族は必死に納得しようとするから(あたりまえだけど)しばらく大変だと思うけど、がんばってね。
あと自殺は伝染るから気をつけて

ども。なるほどわかります。今回の場合、現職ではなく既に何年も前に退職してましたので、こちらにもそう手がかりはないんですよね。遺族の必死さからすれば、何かの意味を見出したいんだろうし、藁をも掴む心境でしょう。誰もそれを止められないんですがね。

書こうかどうか迷ったんですが、私このエントリー、生理的な違和感あります。多分理解されないでしょうが。
うーむ。

>生理的な違和感あります。多分理解されないでしょうが。

そうですか。あるいは、ここに書くべきではなかったというようなことでしょうかね・・・。

>人の物語は死ぬと終わる。つまり、人が生きている限りは物語は続く、終わらないということだ。

>無駄であっても、足は前に出すしかない。あきらめるのは、もう足が動かせなくなった時でいいではないか

僕はいつもこう思って「生きて」います

何度も何度もダウンさせられて
だけどそのたびに立ち上がって
ファイティングポーズを作って

何度だって再起してやるんだって


僕が二度と立ち上がれなくなったとき
その知らせを聞いて
心を動かしてくれる人はいるのかなぁ


変なコメントですいません

ご無沙汰していました。お元気そうで何よりです。
私は相変わらず、ゆらゆらと浮いたり沈んだりしています。
ちょっと違いますが、私にも似たような事が
今年の初めにありました。
電話があった時に「そう」に違いないと
そう思わせるような人でした。

いつかは足が止まる。かあ。
それまではじたばたとしながらでも、
痕を残していくんでしょうか。。

>>ボクシングファンさん
どうも。ボクシングファンさんが言われるとリアルですね。確かに。ロッキーな感じです。


>>deap_breathさん
お久しぶりです。
>電話があった時に「そう」に違いないと
そう思わせるような人でした。
直感的にわかるときがありますね。どこでどう感じてわかるのかは、言葉に出来ませんが。また時折どうぞ。

私の知らない人で、
私のというか私たちの読者が亡くなられたことを、
電話で伝言されたことがあります。

「楽しかった」そうです。

でも、現実は、
醜い様子をネットでずっと読み続けていたことを、
私は知っています。

だから、常に、
私の文章を読みながら亡くなっていく人がいるかもしれないことに、
心を痛めています。

心を傷つける行為は絶対に見せたくない。
ということです。

それと、心を傷つけたら、心は閉じたままになります。
ネットは心を傷つけやすいメディアです。
そして、心を傷つけられたものは、誰かを傷つけはじめます。

外人の議論は大好きです。
絶対といえるほど、心は傷つけたりしません。
それが痛いほどわかります。
なぜなら傷つかないからです。
当たり前ですね。
その代わり、もし相手の心を傷つけるものなら、
それこそ最悪なことになりそうです。

もし、相手が傷ついているかいないかがわからないなら、
マメに秘密裏に問い合わせることです。
「今、公開で、質問してもいいですか?」とメールするだけでもいい。
質問する内容を知らせる必要ないし、
あくまで公開にこだわるなら、
相手が、今、公開で対応できるかを聞くことは、
礼にかなっていることだとおもいます。

政治や宗教の問題が無礼講でないことは、
BigBangさん自身がよくおわかりなっていることなのに、
ブログでのスタイルにラフでスピーディに行われることに対して、
BigBangさん自身がこれにならい、
他者の無礼に憤りを感じられてもいる。

ネットでは、心の傷ついた人は、
言葉としてネットに残している人も、
読者だけとして参加している人も大勢いると考えています。
この人たちを刺激しつづける限り、
終わりません。

たぶん、BigBangさんに対して批判が集まるとしたら、
BigBangさんのペースについていけないということです。
もし、BigBangさんが、現実でも、ネットでも、
誰か信頼できる人のペースに合わせることができれば、もっと早く解決したかもしれません。
例えば、finalventさんのペースでいったなら、
finalventさんとごく一部の人にしか伝わらない内容を補足しつつ、
そこにBigBangさんの視点を加味して。

もし、今からできることとしたら、松永さんが、BigBangさんに見解を直接求めたことには答えるけど、
松永さんが他のブログで見解を表したことに対しては、すべて黙っている。
どうしても誰かに読んでもらいたいなら、
クローズドな小規模のSNSや、
信頼できる人にだけメールされるとかは、
いかがですか?

そして、BigBangさんがご自分のペースを、
あくまでご自身の望むがままに、
今まで通りに推し進めるなら、
傷つく人はでてくるでしょうね。
そして、問題は山積みされて、
それぞれの現実の死か、
ネットの中での仮想死がないかぎり終わりません。

さて、最後に質問だけ残しておきます。
nonecoのこのコメントで、
BigBangさんは傷つけられましたか?

では、また来月にでものぞいて見ます。

>>nonecoさん

再三言うのですが、ここでは「ことのは」に関する議論は扱いません。申し訳ありませんが、AnotherBに書き込んでください。ですので、ここでコメント返しはしませんが、最後の質問にはお答えしておきます。

>さて、最後に質問だけ残しておきます。
nonecoのこのコメントで、
BigBangさんは傷つけられましたか?


答は、「NO」です。

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