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February 27, 2007

「失われた町」(三崎亜記)---澄み切った不条理な悲しみ

Lost

町が消えていく。というよりも町に住んでいる人物が全て消えていく。不可思議な設定のこの世界が、どこであるのかわからない。過去なのか、あるいは未来なのか。国も人種も定かでない中で生きていく、あるいは「失われていく」人物の造形だけは、はっきりと我らの世界を転写している。

消えていく住民たちのことを、あるいは消えた町のことを悲しむことは、この世界では許されない。そうした思いをもつことは、この世界では「穢れ」とされる。また、消滅の時間、たまたま消滅を免れた人間も、「特別汚染対象」として、一生「管理局」の監視のもとに暮らすのだ。その「管理局」の人間たちもまた「汚染対象」を見続けることで、「汚染」されていく。

やるせない、どこにも持って行きようのない、深い「悲しみ」が物語を深く覆う。消滅の原因も、そしてその対策も全く解き明かされることもなく、最後まで人々は悲しみの中で消えていった人々を思うことも自由にかなわず、いつか身が滅んでいく。

三崎亜記が、この物語に込めた寓意は何だろうか。時空によらず、人の世界に起きる、ありとあらゆる理不尽で理解不能な不幸を、消えていく町にただ重ねたともいえよう。また、そうした不幸に遭遇した人々が、ただ遭遇したというだけの理由で疎んじられ、穢された者として扱われる、我らが幽閉された、永遠のこの世の理不尽を描いたともいえよう。

しかし人の消えうせた「町」はどこか、澄み切った静謐な美しさにも満ちており、今という時代の中では、このどこか現実感のない設定が、心や感情と別の次元での、奇妙な美意識に満ちていることも否めない。どこか夢の中でみたような景色だと思ったら、それは、つい昨日あのバーチャルな異空間で一人夕闇を眺めていた、自分の分身が見つめていた町の空気に、どこか似ていることに気づく。

喪失に出会った人の、理解しがたい悲しみと、命の存在感が満ちた不条理な小説であるが、小説の情景はあくまでも隅々まで澄み切っているのだ。

人はそれでも呼吸しているのだが。

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Comments

サマータイムの夕暮れ時、下宿先のアパートの裏庭の不ぞろいの芝生の陰から、不意にいくつもの光の粒が立ち昇るのを見たことがあります。
そこは手入れのされていない庭で、木々がうっそうとしていました。でも日中は、玉のような木漏れ日が揺れていてとてもきれいなのでした。
その同じ庭で、今度は宵の暗がりから沸く小さな光の粒を見たとき、胸を打たれました。
光の主は蛍でした。
揺らめく青白い光も美しいのですが、日中の木漏れ日を受けて輝く草の葉の、その葉裏で黒い、しみったれた虫がじっとしていたのかと思うと、胸にくるものがありました。2週間後には消えていく運命ですし。

このエントリーを読んで(本のタイトルがまた自分にとってとてもキャッチーでした)、速攻で本屋で買ってきて(すいません)読んでいる途中なのですが、物語前半に出てくる或る光景に、自分の記憶を重ね合わせてしまいました。

>>mikomoriさん

どうも。私のエントリーで、この本を読もうという気になっていただけたのは光栄ですね。ぜひ、読了したところで、また感想等聞かせていただければと思います。(mikomori さんのこのコメントも、大変に印象的なものでした。)

永遠のこの世の理不尽を描いた、ですか。

なるほどちょっと展開が難しかったりしますが、
伝えたいことはヒシヒシと伝わってきますね。

偶然手に取った「バスジャック」を読んだことが
三崎さんワールドにはまったきっかけなのですが、
最初の二階扉の話、なんで二階なのか分からないまま、
不気味な終わり方でそのあとの話もドンドン
引き込まれてしまいました。

ということで、ネットで三崎さんをググってみたら、
http://www.birthday-energy.co.jp
で記事になってます。

「如才ない開拓者」であり、
「常識の通用しない精神状態」をお持ちだとか(笑)。
活躍は2014年~2015年が当面のピークになるそうですよ。

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