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April 27, 2007

邯鄲の夢(2)-- 蟻の棲むところ

あの時代の西武セゾングループには、独特の企画書の様式があった。それは、大きな1枚の紙に、まるで蟻が這っているかのような、細かな字をぎっしり書き込むというスタイルだ。通常企画書は、文字が多すぎてはいけない、なるべくビジュアルでわかるようなシンプルな言葉でまとめろと言われてきた僕には、初めて見たそれは異様だった。

通常のB4の紙ではとても足りないから、それを何枚か張り合わせる。数枚ほど貼り合わせれば、B2ーB1程度の大きさになる。その巨大な紙の隅から隅まで、まるで蟻が這いまわるような小さな文字で、テーマについてのあらゆる派生したイメージを書きなぐるのである。「企画書は1枚で見せる」これが、堤清二氏の指示であったから、そういうスタイルが出来たと誠しやかに言われていたが、本当のところはわからない。

その企画書を、商談の席では相手の前で威圧的に机一杯に広げる。グループの力と権勢を誇示するように、心理的効果もあったと思われる。

たとえば、その年のテーマを特定の国でまとめあげるというのは、よくやられていた。たとえば今年は英国でいくとなると、セゾングループ全体が「英国」というテーマのプランで染め上げられるのである。西武百貨店では英国展に、英国の物産フェア、セゾン美術館では大英博物館展を持ってくる、西武自動車ではジャガーをメインに・・等々。その年のテーマが決まると僕たちは、書店にいって、そのテーマに関わる書籍という書籍を買い占める。そしてそれを山のように積んで、あるいはバラバラにして写真を切り取り、巨大な企画書を作成するのである。(まだインターネットがなかった時代である)

この時代の電通や博報堂が、オーソドックスなスタイルのチャート中心の企画書を通常のスタイルにしていたことを思うと、西武のこのスタイルは実に異様だった。が、時の勢いがあったので、その異様なスタイルですら、それらしく迫力をもって受け止められたのである。そこには、情報の隅から隅までを根こそぎ持っていこうとする貪欲な蟻の集団が動いており、その一匹は自分であったのであろうが、虫眼鏡で見なければわからないほど細かな文字が書き込まれた独特の企画書も、またその醜悪なほど貪欲な蟻の群れを思い起こさせるものだった、と今は思っている。

この時代の西武セゾングループの中核は、池袋のサンシャインにあった。その中でも「営業企画」と呼ばれる部署が、堤清二氏の下でグループ全体を統括し、そのプロモーションの方向性を決めた。彼らはグループ内でのエリートであり、店舗関連の担当者の上に欲しいままに君臨する、いわば旗本であった。

この時代の西武セゾンでは、売りの現場にいる人々は軽視され、雲をつかむような大法螺を広げ、大きな企画書を広げてイメージ優先の絵空事を奏でる部隊が優遇されたのである。

バブル最盛期に文化の創造者の名前を欲しいままにし、「感性マーケティング」や、「文化戦略」なる言葉を生み出し、西武だけがその年のこの国のトレンドを決めるのだとまで奢りに奢った体質は、この「営業企画」のセクションの気風に、象徴的に表れていた。

さしづめ、この時代の池袋サンシャインビルは、巨大な西武の「蟻塚」だったと言ってもいいだろう。無数の蟻がその蟻塚にはうごめいていた。

 

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