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June 25, 2007

水の呪縛-----渋谷シエスパの爆発事故

円山町の「ユーロスペース」のカフェに、映画上演前の時間、しばらく座っていたことがあった。カウンターに、パンフレットがいくつか置いてあって、その一つを手に取ると、「シエスパ」というスパのものだった。「渋谷にスパか。へー」と興味を持って見始めた。パンフレットの写真がそれなりに豪華であり、なかなか興味深いものだったからだ。が、女性専用だという。「なんだ。」それを知った途端に興味がなくなり、それっきりそのことは忘れていた。

今回の事件で、最初てっきりユーロスペースも爆風を受けたのではないかと思った。ユーロスペースとシエスパが至近距離なのを記憶していたからだ。実際、後で調べたところでは、シエスパの本館とユーロスペースとは100mくらいの距離だった。もっとも今回悲劇が起きたのは、従業員用の別館だったので、実際の距離はもう少し離れている。住所もシエスパは円山町ではなく、松濤だった。自分と微かにニアミスした事故現場・・ということだけだったら、それもよくある話だったのだろうが、私の心に引っかかるものがもう一つあった。

ここで話はいささか飛躍するが、1997年に起きた猟奇的と言ってもいいあの事件、「東電OL殺人事件」と呼ばれた殺人事件に飛ぶ。事件のルポであるノンフィクション、佐野眞一「東電OL殺人事件」には渋谷の円山町に関して次のような記述がある。いま手元に本がないので、ネットの情報参照と記憶に頼るが、それは次のような話である。

渋谷の花町、円山町を興したのは 岐阜県荘川村に昭和35年に完成した御母衣ダム工事に伴って水没した村の人たち、通称「岐阜グループ」とい呼ばれる人々であった。彼らは莫大な補償金を手に円山町にやってきて、経営が傾きかけていた料亭などからこの辺りの土地を買占め、連れ込み旅館やラブホテル次々と建設していった。岐阜グループは春秋会という組織を作って、年中集まりを持つなど、結束が固い。この辺りのホテルに「白川」など川の名前が多いのは水没した村のことを忘れないように、という彼らの気持ちの表れであるとか。 ここからは因縁話めくのだが、御母衣ダムの建設主体は東京電力。そしてその東電に勤めていたのが殺された女性であり、直接、御母衣ダムの建設にはタッチしなかったが、彼女の父親もまた、東電に勤めていた。

佐野は、彼女が円山町に通ったのは、「彼女を吸引する強い磁力のようなもの」がこの街にあったとし、

 「そして彼女は、湖に沈んだ奥飛騨の村のように、この街の底に水没していった。」

と結んでいる。

佐野の話は、「水」と「円山町」そして東京電力の因縁を軸にこの事件を総括していこうというところがあり、正直強引さにどうなんだろうという気もした。この事件のミステリアスな部分を、言うに言えない因縁の話としても処理しようとしているのではないか。だが確かに、そうでもしなければ理解のできない暗闇が被害者の女性の奇異な行動に感じられたのではあるが。

さらにここで渋谷という町の歴史と由来にも通じてくるものがある。

渋谷は元々入江であり、また渋谷川は今では渋谷駅付近で暗渠になっているが、以前は神宮内苑の池や新宿御苑の池、代々木上原や参宮橋など、いくつもの支流や泉の水を集めて流れていた。
渋谷という地名は、江戸時代に作成された文献により二説に分かれる。ひとつは、『新編武蔵風土記稿』によるもので、昔、この辺りを「塩谷の里」と呼称したことに由来するという説である。その根拠は、土中を掘ると青い砂や、貝が出土するなど、昔この辺りが海辺であったことである。そこから塩谷の名が生まれ、その後塩谷が渋谷に変わったとされている。
もうひとつは、『金王八満神社社記』にみえる河崎重家の改姓に由来する伝承である。桓武天皇の孫高望王の子孫で秩父党の一人である河崎冠者基家は、永承6 (1051)年、前九年の役に源頼義に従って功をたて武蔵国豊島郡谷盛庄を与えられた。基家の子重家が源義家に従って京都にいたときのある夜、宮中に盗賊が入り、これを生け捕りにした。賊の名を聞くと、渋谷権介盛国と答えたので、堀川天皇は重家の武勇をほめて、姓を渋谷と改めたため、重家の領地「谷盛庄」のなかに「渋谷」という村が出来たといわれる。

実際、佐野の本を読んでから、道玄坂を上りきったところに立って、109前のスクランブル交差点の方向を見下ろすたびに、交差点を行きかう若者の群れが僕には、イメージの谷底を泳ぎわたる小さな魚の群れに見えることがある。実際、あのスクランブル交差点のあたりは渋谷の谷の中でも低くなっているところ。宮増坂、道玄坂、そして桜ヶ丘のいずれの方向からも見下ろせる低い窪みにあたる。


話を戻す。

今回のシエスパ事件の原因は、関東ガス田と呼ばれる広大なメタンガス層からのガスの流出を、リスクとして配慮しなかった関連企業の人為的なミスであると、今のところ報じられている。「東電OL事件」で、渋谷という町と水との関わりを、過度に水を軸とした物語に昇華させて衝撃的な事件に重ねたのが佐野眞一であるとすれば、ここでもう一度シエスパの事件を引き出して因縁に重ねるに類した私の行為もまた、遙かにこじつけめいているかもしれないが、佐野の本に描かれた渋谷の伝奇的な描写がどうしても頭の中で重なってくるのである。それはあるイメージの連携のようなものであり、それ以上説明は難しい。

そもそも、1500mも掘ればいたるところで温泉と、それに伴うメタンガス層にぶちあたるのが、東京においても通常のことであるという。であれば、ここで何もことさら渋谷と水の因縁を持ち出すことも無理があるだろう。

だが、目に見えぬ地中の暗渠に広がる、メタンガスの巨大なリスクを見過ごした「ユニマットビューティーアンドスパ」の経営者は、そしてユニマットグループは、渋谷という街の地下に広がる暗のような水の空間と水にとりつかれた過去について、思いをしたことは、おそらくなかったのではないか。街の因縁を知ることが、そこで営む人の行動様式に影響を与えることは容易に想像しうる。渋谷の「水」について、そして「地下の水」にとりつくように、まとわりついている「メタンガス」を無視したことが惨事につながった、と考えていくことは、あながち意味のない行為にも思えないのである。


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Comments

なるほど。
東電、水没した町の人々、今回の事故、そう考えると関係がありそうに思えますね。

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