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June 23, 2010

「オーケストラ!」-おもろうてやがて凄まじき。

文化村で「オーケストラ!」という映画を見てきたが、面白かった。スト―リーは、ソ連圧政下ブレジネフ政権のもとで、地位を奪われたかつての天才指揮者が今は掃除夫に甘んじている。それがふとしたことで、かつての仲間たちを集めてパリの大劇場で30年ぶりにニセモノの寄せ集め楽団を率いて演奏に臨む。そこに、美貌のバイオリニストの出生の秘密が絡むというもの。

これが映画として実によくできている。フランス映画でこんなに笑えるのかと思った前半のバタバタ、じつにいい加減な落ちぶれ果てたかつての仲間たち。その滑稽さや哀れさに笑った後で、後半は一転して泣かせる。ソ連と東欧の歩んだ暗い歴史の重さに圧倒される。涙あり、笑いあり、恋愛あり、音楽あり。そして深刻な歴史の苦難に直面した人間の強さ、弱さ。

歴史だけではなく、現代の小道具も随所に効いている。パリに到着した途端に浮かれて行方不明になる仲間たちを再び集めるのは、ユダヤ人の元団員がひと儲けしようと持ち込んだSIMフリーの携帯電話。出迎えたフランス人のマネージャーが目の前でタイプする高そうな(そうでもないんだけど)ノートパソコンに、目を見張る落ちぶれたロシア人たち。そして、「音楽なんてネットからダウンロードすればいいだろ。金をとって人に聞かせる時代じゃない」というセリフ。その割には肝心な場面で20年も前のものかと思うような古臭いFAXがカタカタ動いているロシアのオーケストラ事務所。現代の「ガチャモノ」好きにもクスッと笑わせてくれる仕掛けがあちこちに施されているのだ。

そしてソ連東欧の歩んだ現代史の悲劇が途方もないものであったことが、平和な日本人の胸には骨の髄まで応える。なぜ元天才指揮者がメラニー・ロラン演じる美貌のバイオリニストにそこまでこだわるのか、一体30年前に何があったのか。その謎解きに嵌るうちに、前半喜劇であった映画のテーマが際限なく暗く、深い穴を覗きこむようなものであったことが、映画の後半で浮かび上がってくる。

監督のラデュ・ミヘイレアニュは、1980年に共産党政権下のルーマニア。チャウシェスク政権下から亡命したユダヤ系であると知り、細部のディテールも実に確かであったことを知るのだ。

尚、ストーリ-はおおよその予測を裏切る。最後にあっと息を飲むような仕掛けも施されている。どうぞ劇場へ。お薦めです。 (Bunkamura  ル・シネマ)

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