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March 25, 2014

春日狂想

人が旅立つと電話の着信一つでわかる。いつからこんな風になったのだろうか。

この詩人の前には物心ついて以来、いつもあなたが立っていたので、あなたのことなのだか、詩人のことだか僕にはよくわからない時があった。

いま、あなたがそこを去ったので、僕は改めてあなたではなく、この詩人の辞世のような詩を読んでいる。

まこと世は酷く信じられないことが起きる。あなたのこのような退場を思い切り僕は誹るべきなのだろうが、そこにとうの昔からいるはずのない、あなたが遮っていた詩人しか残っていないようで、謗りの言葉も吐けないでいる。

こんな自分を見て、あなたがどこかまだその辺でにやりとしているなら、誠にそれも酷い話だ。

あまりのことに悔やみも言えない状況がこの世にはあるのだと知る。

春日狂想(中原中也)

   1

愛するものが死んだ時には、
自殺しなけあなりません。

愛するものが死んだ時には、
それより他に、方法がない。

けれどもそれでも、業〈ごう〉(?)が深くて、
なほもながらふことともなつたら、

奉仕の気持に、なることなんです。
奉仕の気持に、なることなんです。

愛するものは、死んだのですから、
たしかにそれは、死んだのですから、

もはやどうにも、ならぬのですから、
そのもののために、そのもののために、

奉仕の気持に、ならなけあならない。
奉仕の気持に、ならなけあならない。

   2

奉仕の気持になりにはなつたが、
さて格別の、ことも出来ない。

そこで以前〈せん〉より、本なら熟読。
そこで以前〈せん〉より、人には丁寧。

テムポ正しき散歩をなして
麦稈真田〈ばくかんさなだ〉を敬虔〈(けいけん)〉に編み ――

まるでこれでは、玩具〈(おもちゃ)〉の兵隊、
まるでこれでは、毎日、日曜。

神社の日向を、ゆるゆる歩み、
知人に遇〈(あ)〉へば、につこり致し、

飴売爺々〈(あめうりじじい)〉と、仲よしになり、
鳩に豆なぞ、パラパラ撒いて、

まぶしくなつたら、日蔭に這入〈(はい)〉り、
そこで地面や草木を見直す。

苔はまことに、ひんやりいたし、
いはうやうなき、今日の麗日。

参詣人等もぞろぞろ歩き、
わたしは、なんにも腹が立たない。

   ((まことに人生、一瞬の夢、
     ゴム風船の、美しさかな。))

空に昇つて、光つて、消えて ――
やあ、今日は、御機嫌いかが。

久しぶりだね、その後どうです。
そこらの何処〈(どこ)〉かで、お茶でも飲みましよ。

勇んで茶店に這入りはすれど、
ところで話は、とかくないもの。

煙草なんぞを、くさくさ吹かし、
名状しがたい覚悟をなして、 ――

戸外〈そと〉はまことに賑やかなこと!
――ではまたそのうち、奥さんによろしく、

外国〈あつち〉に行つたら、たよりを下さい。
あんまりお酒は、飲まんがいいよ。

馬車も通れば、電車も通る。
まことに人生、花嫁御寮。

まぶしく、美〈は〉しく、はた俯〈(うつむ)〉いて、
話をさせたら、でもうんざりか?

それでも心をポーツとさせる、
まことに、人生、花嫁御寮

   3

ではみなさん、
喜び過ぎず悲しみ過ぎず、
テムポ正しく、握手をしませう。

つまり、我等に欠けてるものは、
実直なんぞと、心得まして。

ハイ、ではみなさん、ハイ、御一緒に ――
テムポ正しく、握手をしませう。

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