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February 02, 2005

ロバートキャパのこと---倒れたものと変わったもの

capa











Deep Breathさんの記事がきっかけで、久しぶりにロバートキャパのことを思い出した。調べたところ、ロバート・キャパ写真展 『キャパ・イン・カラー』が日本橋三越本店で2月15日から開かれるらしい。

写真集団マグナムを最初に教えてくれたのは、水道橋で小さな出版社を経営していた伯母だった。高校生の時、僕はよく気ままなアルバイト先として伯母の会社を選んでいたのだけれど、ある時、伯母に急に日本橋まで来てくれと言われ、てっきり仕事の届け物でも頼まれるのかと思って急いで高島屋まで出かけた。

高島屋の前には伯母が待っていたが、実は伯母は、仕事の用事を装い、僕にこの写真展を見せるために呼び出したのだ。そういうことが、日常的にできる人だった。
高島屋では、マグナムの写真展が開かれていて、ここで僕は初めてマグナムの活動とそこに集っていた写真家達、中でもロバートキャパを知った。

戦場写真家のヒロイズムは、少年だった僕を捉えるには十分で、僕はその写真展がきっかけになって、いつかキャパのように戦場に出かける写真家になりたいと思うようになった。戦場に命も惜しまず出かけていき、一枚の写真が決定的な名声をもたらす。その光の部分が、まだ世界を知らない子供を捉えたのである。戦場に赴く自分の姿に心の中で酔いしれた。

しかし年を経るにつれて、戦場写真家を英雄視する気持は薄れ、不安定な身分のフリージャーナリストとして、大マスコミに属するものに比べ格段に劣悪な環境で危険な地域に出かけなければならない、この職業の現実を知るようになった。何千人も何万人もいるカメラマンの多くは、注目される写真も撮れず、名前も知られず消えていく。
誰もがキャパになれるわけではないのだ。当たり前だけれど。

栄光の陰には、一枚の写真で一攫千金を狙う、あまり心根の宜しいとは言えない自称カメラマンたちが多く存在することを知るに至ったし、あのキャパですら、その初期の頃は、功名心に燃えたただの若者だったのである。

「CAPA in Love & War」はこのキャパの生涯を追ったドキュメンタリーであるが、残念ながらまだ見る機会に恵まれないでいる。)

以前、香田証生さんの事件があったときに、僕はキャパを引用して彼の無鉄砲さをこの上なく侮辱する人への反論に用いた。

●最後に詫びて死んだ青年---香田証生さんの死は軽くない

キャパですら、最初は好奇心だけをエネルギーにして対象に立ち向かっていった無名の若者でしかなかった。
結果が必ずしも得られなかったからといって若者の向こう見ずを頭から否定できるのかという思いがあった。
しかし、それに反論する人もいた。キャパは有名になり多くの作品を残した。では香田さんは何を残したか。何も残さなかったではないかと。しかしそれも結果論でしかない。

僕は世界への姿勢について書いているのである。結果ではないのだ。
報われるものは最後に神(のようなもの)がくれるかもしれない。くれないかもしれない。だからといってそれを目指し倒れたものを笑うお前は誰だ?何者なのだ?

僕はそう言いたかった。

マグナムの写真家たちが栄光を博した時代は既に終わった。
湾岸戦争のCNN以来、報道の中心は臨場感あふれる、動く映像に移った。アルジャジーラは特ダネであっても一枚の静止画像を世界に配信するようなことはない。
世界は複雑化し、混沌とし、ヒロイックな戦争写真家が一瞬の現実を切り取り、その写真がきっかけで世界が動くようなことは少なくなりつつあるのかもしれない。
一瞬の功名心や冒険心は時として人からさげすまれる場合すら多くなった。自己責任というあたかも道徳の時間かと思われる用語を用いて。
不思議なことにきまって、人はこれらの人たちに安全圏から石を投げるのであり、それが新しい現代の病巣となっていると思う。

ロバート・キャパは41歳で死んでいる。最後にカメラを向けていたのは、ハノイ南方のジープの上だったという。ベトコン討伐のフランス軍のジープであったらしい。しかし、ついに地雷が爆裂し、キャパはライカを持ったまま死んだ。

紆余曲折あり、結局僕は戦場写真家にもジャーナリストにもならなかったけれど、キャパやマグナムの名前を聞くたびに、その後交通事故で若くして夭折した伯母の表情やあの時の心遣いを思い出す。

倒れたものも変わったものもあるけれど、変わらないものもある。
あのとき伯母の伝えた気概は僕の中で失われていないはずだ。

きっと。

ロバートキャパのこと---キャパ・イン・カラー(そしてY)

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キャパは私にとってもいろんな事を思い出させてくれる人です。 

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