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July 14, 2005

Googleの才気と狂気------Gmailから始まるナーバスな未来

earth

いい加減にしなさい!!!!


日曜日の朝だと言うのに、けたたましい物音で目を覚ます。
台所から、また祖父母が言い争う声と駆け回る足音がする。
祖母の怒りの矛先は、祖父が後生大事にこの50年間も保存しているメールボックスに向けられているのだ。いつもの風景だ。

祖父は、メモリがたったの100GBしかない旧式の大事なウェアラブルPCを抱えて、いつものように庭先を逃げ回っている。それを祖母が壊そうと追いかけまわす。

ここ何十年も繰り返されてきたいつもの、老夫婦の年中行事。だからといって、何も日曜日の朝でなくてもいいじゃないか。僕は、うんざりするのも疲れ果てた。また毛布をかぶる。

だいたい、祖母はわかっていない。

祖母が目のかたきにしている、祖父の宝物のようなメールボックスは、あの骨董品の腕時計のようなウェアラブルPCにはない。21世紀の初頭から、驚異の急成長を遂げた、あのカエルの鳴き声のような名前の会社の、世界最大級のデータセンターの一角に保存されている。そこに祖父の一生の全ての記録が収められているのだ。

祖父17歳。高校生の時に隣のクラスの女の子にもらった初めてのラブレターメールも、祖母と結婚する直前まで繰り返していた、アラスカに転校した遠距離大恋愛の相手との、祖父いわく異様に盛り上がったメールのやり取りも、あの巨大な会社のビルの地下にある、100億Tバイトとも噂されるディスクに、全てが収められているのだ。祖母の手の届く距離ではない。

祖父は、それを後生大事に何度も何度も検索してはその空間に浸り、戻ってこない青春を繰り返し懐かしんでいるだけだ。罪は無い。何も祖母も、そんなささやかな祖父の楽しみを、そこまで憎悪しなくてもいいではないかと、ぼんやりとした頭で思う。

もちろん、彼女の気持ちもわからなくはない。全ては、僕の生まれる遥か前、2005年に彼らがスタートした、この会社のGmailと呼ばれる稚拙なサービスから始まったということだ。それこそ当時は画期的なニュースだったらしいが、その時、こんな未来をいったい何人が描いただろうか。
それまで、無料メールのメールボックスなんて、せいぜい数10MBだったものを、このカエル会社は、一気に2GBまで拡張した。

#おもちゃみたいな容量だ。今思えばね。

「2,000 MB の容量が用意されているため、メッセージを削除する必要はありません。」

というのが、当時の彼らのキャッチフレーズだった。笑っちゃうだろ。

僕は知らないが、それまでメールなんてものは、適度に溜まったところで、順に消去していくものだったらしい。第一、それほど大量のメールを保管していたら、すぐにメールボックスがぱんぱんになって、動かなくなってしまう。仮に数千通もメールをキープできたとしても、どこにどのメールがあるのか探すだけでも一苦労だったということだ。

ところが、「カエル会社」は、この二つの壁を両方とも取り払った。

2005年に2GBでスタートした彼らのメールサービスは、その翌年にはすぐに5GBまで拡大した。さらに次の年には一気に10GBになった。そんな大容量のメールボックスを全人類に割り当ててしまえというのが、この会社の当時の経営陣の見た夢だった。

幾らなんでも、これだけの容量を、1人の人間が一生かかっても使い切れるわけはない。そう思っていた大半の人々の予測はすぐに裏切られた。

広大なメールボックス空間を得たメールシステムは、インターネット2、インターネット3の上で加速度的に進化し、メールに動画、音声を添付するのは言うまでもなく、2015年ごろには、巨大な3Dデータのメッセージを添えて遅れるようになった。
クリスマスには、メールから飛び出したサンタクロースの3Dアニメ-ションが、あなたの彼女の部屋の空間一杯をステージとして、ジングルベルを歌い踊るようになったのである。

1人当たり10GBというメールボックスはすぐに消費され、人々は新しいメールボックス空間を欲するようになった。

もっと、もっとメールボックスを!

そして、2020年ごろまでには、今祖父が後生大事に使っている、スーパー級のメールボックス、1人あたり10TBという気の遠くなるような膨大なメールボックス空間が、ほぼ全世界のユーザーに割り当てられるようになったのである。

こうなると人々は、全てのメールを捨てないようになった。送信したメールも、受信したメールも、そしてそのメールに添えた全てのデータも、生きている限り、人生の記録として永遠に残して置くようになったのである。
それどころか父のメールも、母のメールも、ありとあらゆるメールが保管されるようになった。
メールボックスの破裂的膨張とともに、この会社も急激に成長し、世界の主要都市のほとんどに、メールを保管する巨大なディスクを並列した堅固なデータセンターを置くようになった。

人々は、自分の一生の記憶を、この電子の要塞に委託し、全てを彼らの管理に委ねた。そしてこれも彼らが与えてくれる、超高速の検索システムで、その膨大な自分の人生の記録の中から、楽しかった思い出につながるメールだけを引き出し、その3Dの空間に浸り、何回も何回も回顧にふけるようになったのである。ちょうど、僕の祖父のようにだ。

考えても見て欲しい。あなたが17歳の時に、どきどきしながら触れた隣のクラスの彼女の当時の姿がそのままに、50年後のあなたの部屋に深夜立体画像でよみがえるのである。あなたは、このシステムの魔力に抗し切れるか?僕なら「断然NO」だ。

恍惚とした表情でメール空間に浸る祖父の顔を見ていると、その巨大なメールボックスがもしも何かの理由で、消滅したり破壊されたりしたら、祖父はもちろん、いったい世界中の人間はどうなってしまうのかと思う。何重にもセキュリティが施され、万全の備えで運用されているという、彼らのデータセンターが、万一テロリストの手に渡ったら、全人類は、その全ての大事な人生の記憶を彼らの胸先三寸に置かれるという、悪夢のような事態が発生するんだ。

考えただけでも身震いがする。

これも噂なのだが、昨年までにはこの会社の経営層の殆どのメンバーが、昔サウジアラビアと呼ばれていた中近東一体の、ある名家の出身者で占められるようになったという、まことしやかな噂もネット上に流れている。

僕は近代世界史に詳しくないので、その家の名前までは良く覚えていない。ただ、遠い昔、米国と呼ばれていた一帯に、壊滅的な被害を与えたのは、彼らの祖先であるということだ。米国で設立されたこのカエルの鳴き声のような会社も、いつか彼らに買収され、その後幾何級数的にメールサービスが拡大されたのだと、物知り顔のオタクな友人に聞いた。

でもそれが僕に何の関係があるんだろう?

さっきまで晴天だった空は急に曇り始め、いやな感じの風が吹いている。

コメディショーのような祖父母の追いかけっこを、眠い頭の隅で追いながら、僕には何か不安が心の隅から立ち上がってくるような気がしていたが、もう一度睡魔を貪りたい欲求には勝てなかった。

そうそう、その会社の名前は「Google」って言うんだ。祖父の時代に生きる君は知っているのかな?

・・・・眠くなった。おやすみなさい。もう一度ちょっとだけ眠ってから、またメールするよ。
もちろんGmailで。




【ご注意】
言うまでもないとは思いますがこの記事は全てフィクションですので、ご了解ください。



【参考記事】

・噂のGoogleの1GBメールサービス「Gmail」を最速レビュー!
・はてなダイアリー Gmailとは
・各種GMail Hackまとめ(アルカンタラの暑い夏)

 

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