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July 04, 2005

「意志の勝利」が残した記憶----久しぶりにレニ・リーフェンシュタールを思い出した。

triumpfdeswillens

菊地成孔という人のことをあまり知らなかったのだけれど、今夜の「情熱大陸」で見て、へー。才がほとばしる人はうらやましい。などと平凡な感想を持ちながらぼーっと眺めていたのだけれど、その中で、彼がちょっと音楽と平和に関しておもしろいことを言っていた。

質問は、「音楽に平和をもたらす力があると思うか」とかそんなものだったのだけれど、彼はそんなものは全然ないですよ、と否定してその根拠として、第二次世界大戦で米国が勝った理由の一つはスウィングジャズだったと言っているのだ。
二次大戦の時に、スウィングジャズの絶大な戦意高揚効果があったのに対して、ベトナム戦争の時はそうしたものがなかったどころか、音楽を反戦の方向に走らせてしまった。ベトナム戦争の敗因の一つは、音楽を味方につけられなかったことにもあるのではないか。つまり、音楽があれば平和になるとか、幸せになるなどという考えは間違いで、そんなことを言うのは、お金があれば幸せになりますというのと同じくらいに、実に頼りのないものである。音楽というのはどう利用するかというところが肝心なのであり、所詮そんなものではないのか、というようなものだった。

僕は第二次世界大戦にスウィングジャズが果たした役割について詳細に解説する知識はないけれど、それなりに説得力のある面もあった。

音楽だけではなく、芸術と戦争や平和との関係に関して、あるいはイデオロギーに関して言えば、忘れられない映画がある。それは1934年にレニ・リーフェンシュタール監督によって製作されたナチ党の全国党大会記録映画「意志の勝利」である。

「リーフェンシュタール監督はこの映画の監督をヒトラー自身から直接依頼された。主演・監督を務めた映画『青の光』に感動してのことという。リーフェンシュタールの自伝によると、宣伝相ゲッベルスの嫉妬を買いたくなかったし、ヒトラーの提示した「意思の勝利」というタイトルが大仰で芸術性のないことに嫌悪を感じたこともあって、最初は断ったという。しかし結局はヒトラーの非常な熱意と、題名以外は自由に製作させるという約束に動かされて監督を引き受けることになった。」(Wikipediaより)

「意志の勝利」を見る機会があったのは、もうずいぶんと昔。まだ大学生の頃だった。そのころある小ホールの支配人をしていた火宅の父が、珍しく招待をしてくれて、友人達を誘って出かけたのである。

「意志の勝利」に描かれたのは、ナチズムの強烈な存在感と、貫かれた徹底した様式美である。ナチズムの善悪について考える余裕もなく、観客はレニの卓越した、しかも隙のない演出手法に息を飲む。

「リーフェンシュタール監督は撮影・編集にあたっていくつもの独創的な技法を考案した。たとえばヒトラーの演説のシーンでは半円形に敷いたレールの上に置いたカメラでヒトラーを追い、様々なアングルから同じ被写体を捉えながらも見る者を飽きさせずに高揚させることに成功している。他にも大胆なクローズアップによって群衆の中の一人を切り取って見せ、それによって見る者もまたその全体の中の個であるかのような臨場感を抱かせたり、ヒトラーの飛行機によるニュルンベルク到着を冒頭に置くことによって雲の中から降臨する神・絶対者のイメージを想起させるなど、様々な手法で党大会の高揚感を伝え、また新たに作り出すことにも成功している。」(Wikipediaより)

圧倒的迫力を持つヒットラーの演説場面。ふと気がつくとすすり泣きが聞こえる。隣を見ると、友人達に混じってその日一緒に来た女の子が、ハンカチで目を押さえていた。後から聞くと、ヒットラーの演説にすっかり「やられて」しまい、訳がわからないままに感動して涙が出てきたということだった。音楽やデザイン、言葉に非常に鋭敏な感性を持つ人だった。
そして彼女は当時の僕の恋人でもあった。僕は、そのストレートな感性にたじろぎ、戸惑った。

だがわかる部分もある。論理とか正義とか、人間とか言う前に、レニの映画に描かれたヒトラーの演説は確かに悪魔的な魅力があった。論理はそれこそ空っぽなのだが、打ちひしがれたゲルマン民族の誇りを取り戻せと繰り返し繰り返し、単純な短い言葉を繰り返す彼の演説いや絶叫は、確かに聴く者を奈落に引きずり込むような迫力に満ちていた。それは認めざるを得なかった。

父は、映画の終了後、近くの喫茶店に友人達を招待し、「この世でもっとも邪悪なものが、もっとも美しいものを生み出すことがある。つまり美しいものが正義であるということはないのである」というような話をしてくれた。父にしては珍しく芯の通った、ある種ジャーナリストらしい発言だった。

後から帰りすがら、彼女に父の印象を聞くと、ただ一言「手があなたに似ていた」とだけ言ったので、思わず自分の手を眺めたことを覚えている。
菊地成孔のスウィングジャズの話を聞いた時に、このヒトラーの演説場面とそれを撮影したレニのことを久しぶりに思い出したのは、少々唐突と言えば唐突だが、父との数少ない思い出の1場面でもある。


美しいものが時にもっとも邪悪なものに味方することがある。--------

音楽や映像、芸術に限らずイデオロギーの美や一貫性を過度に求める姿勢に対しても、その危険は秘められているような気がしているのだが、それはまた別の機会に。

●レニ・リーフェンシュタールは、「意志の勝利」の他、ベルリンオリンピックの記録映画「民族の祭典」などの撮影により、ナチスに協力したという烙印を押され、戦後は長く冷遇された。米軍、続いて仏軍に逮捕され収容所で尋問、拘禁、精神病院に収容され、非ナチ審査機関で「ナチの政治責任なし」とされるも「ナチの同格者」と格付けされる。1970年代以降、アフリカ、ヌバの人びとを撮影した写真集と、71歳のとき、年齢を51歳と偽ってダイビングのライセンスを取得し撮影した水中写真集の作品で、戦前の映画作品も含めて再評価されたが、2003年9月8日に101歳で没している。



●ご存知の方もあろうが、この7月9日より東京地区で封切られる「ヒトラー最期の12日間」にも注目している。

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Comments

はじめまして。トラックバックありがとうございます。
いきなり大きなブログからトラバされたのでびっくりしました。
「音楽に平和をもたらす力があると思うか」の答えは僕にも印象的でした。
読んでいるうちにだんだん「意志の勝利」に興味が湧いてきましたが、日本ではソフト化されていないということで残念です。

始めまして。
「大きなブログ」なんてとんでもない。

「音楽で平和を・・・」のシーンは、ちょっとした場面でしかなかったのに、ネットを見ると多くの人が反応していたようで、驚きました。僕はちょっと、飛躍してしまいましたが。

「意志の勝利」のDVDは、サイドバーにリンクしましたが、もしかしたら日本語訳されていないかもしれません。ですが、映像表現の迫力はただごとではなりませんから、同じレニの「民族の祭典」含めて、機会があれば見てみてください。

ありがとうございます!
機会があればぜひ見てみたいと思います。では。

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