マイクロソフトを脅かすGoogle---「見たことのない未来」の胎動
マイクロソフトのSPプロモーションを担当していたのは、1990年頃。Windows3.0がようやくデビューしたころであり、そこからWindows95がデビューする頃までのマイクロソフトは、現在知られているようなマイクロソフトではなく、会社名を言っても誰もが首をかしげるような知名度しか、この国では得られていなかった。
マイクロソフト本社は、まだ小さな雑居ビルに入っており、後に日本法人の社長になる阿多氏が広報担当として、総指揮をとっていた時代であった。
僕たちがプロモーションの中心にしていたのも、DOSのファイルマネージャーもどきのようであり、おもちゃのような幼少時のWindowsではなく、現在のMicrosoft Officeの遠い遠い祖先とも言うべき、DOS上で動くあるビジネスソフトだった。(製品名をあげると、たちどころに「足」がつきそうなので控える。)後に万策整ってWindows95が上陸する際、広報宣伝の打ち合わせに出向いた、某テレビ局の担当者に、このマイクロソフトのことを説明するのがまた一苦労で。「お宅のテレビ局など買収してもおかしくないような巨大な企業なんですよ」と言っても、高笑いをされたものだ。
#もちろん、それから何年も後にマイクロソフトよりも何千倍も小さな会社に、危うく買収されそうになったあの、お台場の局である。
マイクロソフトはWindows95の大成功の後、日本でも誰もが知っている企業になったが、それまでにも、そしてその後にもマイクロソフトには幾度かの危機がささやかれ、天才ビルゲイツはそのことごとくを打ち破って今日の隆盛を勝ち得ているのは言うまでもない。
僕が覚えているだけでも
●IBMとのOS/2共同開発破棄による混乱
●アップル社とのWIndowsGUIに関わる訴訟闘争
●マークアンドリューセンのNetscapeに代表される初期インターネット時代の「英雄」の侵攻
●IEとWindowsの「不可分性」が招いた反トラスト法(独占禁止法)訴訟での分割の危機
●Linuxに代表されるOpenSourceの勃興
などがある。
「マイクロソフト以後の世界」を想像することができるか否かは、こうした産業に関わるものとして、その想像力と予知力の絶望的な無力を思い知らされる悲しいゲームでもあった。
限りない数のライバルを、ことごとく蹴落として同社の今日があるわけだが、今回こそはマイクロソフトの「最大の危機」であると喧伝するメディアが急速に増加している。
それは言うまでもなく強敵Googleの登場である。
最近掲載された、
「マイクロソフトが直面する10年越しの「悪夢のシナリオ」」(CNET JAPAN)
が興味深い。
記事によれば、
ここ10年で唯一変化があったとすれば、それはMicrosoftにとって漠然としていた悪夢が、Googleという形になって見えてきたことだ。
GoogleはMicrosoftにとって、ハイテク業界に対する影響力の点で、Netscapeが初めてブラウザを投入して以来最大の脅威になろうとしている。ネットワークに接続された大量のコンピュータとウェブベースのソフトウェアを擁するGoogleは、従来の検索ビジネス以外にも業務を急速に拡大させており、まもなくMicrosoftと衝突すると多くのアナリストが述べている。
という。
Googleにはこの戦いに使える軍資金が約70億ドルある。また同社は既に、これまでMicrosoftに当たっていた技術関連の脚光を奪っているほか、たくさんの外部開発者のマインドシェアも獲得している。実際、GoogleはMicrosoftの主要な幹部を数人引き抜いてさえいるが、これは Microsoftが1980~90年代にライバルに対して何度となく繰り返してきたやり方だ。
その後数年の経緯を考えると、この判断が誤っていたとするのは難しい。大打撃を受けたNetscapeはAmerica Onlineに買収された。当時大きな脅威だったAOLは、その影響力を失ってしまった。そして、1997年度から2005年度末の6月にかけて、 Microsoftの年間売上高は113億6000万ドルから397億9000万ドルへと増加した。また、この間に純利益はおよそ3倍の年間122億 5000万ドルに達した。
しかし、1997年当時にこれらの幹部が予見できなかったことがある。それは、スタンフォード大学の学生寮で大学院生が開発したばかりの検索エンジンが、その後Googleとなり、2005年までには年間40億ドルの収益を上げるビジネスへと成長して、インターネット関連の大手企業になる、ということだった。
Googleがあげる年間利益が実にマイクロソフトの1/3近くにまで迫っている(!!)という事実には驚いた。
さらに記事は、マイクソフトが今後、複雑・大規模化してしまい手に負えなくなったWindowsから、MSNに代表されるようなWebサービスへ主力を移動しないことには、Googleに対抗することは難しいのではないかという予測を行っている。
また
もちろん、Microsoftがすぐにも崩壊するというわけではない。OS市場を独占するWindowsやOfficeスイート、電子メールシステムの Exchangeから、Microsoftはこの問題を修正するための金をふんだんに得ている。そして、IT分野の大手企業が一晩で消えてなくなるというわけでもない。実際に、IBMは何度かの失敗を経て、いまではサービス関連の王者に生まれ変わっている。
としながらも、今後マイクロソフトが「支配」してきたPCの世界が大きく変わる予感を提示しており、
しかし、MicrosoftがIT分野で10年以上にわたって行使してきた強力な支配力が、ついに弱まり始めているといっても間違いないだろう。PC以外の機器をつかってネットにアクセスするウェブユーザーがますます増えている。そして、Googleはこれまでに他に(Netscapeさえもだ)なかったようなやり方で一般大衆の想像力を捉えている。
とまとめている。
今回もまた、何度も叫ばれては消えていった「マイクロソフト崩壊の予想」論の一つに過ぎないようにも見えて、実は今までの「危機」とは全く質の違う脅威を、Googleがついに武器としているようにも見える。百戦練磨の相手に対して、対するGoogleは既に「小兵」ではないからである。
「PC」という小さな箱の中で、「OS」という独裁者の支配によってMS社が君臨する時代は過ぎつつあり、広大なインターネット空間の膨大なサーバ上に、多くのキラーサービスとなるWebアプリケーションを散りばめ続けているGoogleは、インターネットが生み出した、完全な分散コンピューティングの時代を見据えて起業された、全く新しい、マイクロソフトとは根本的に異なる企業であり、マイクロソフトを徐々に包囲し始めているように見える。
実際、ここのところ、彼らが次々と生み出している「Google Eath」「Picasa」「Google Desktop」などは、この分散コンピューティングの思想と、膨大な資金とネットワークリソース、それにマイクロソフトからも引き抜いた優秀な人材を背景にしており、彼らが起業したときに、ただの「目新しい検索サイト」であると、たかをくくっていた僕たちの平凡な予想を完全に裏切るインパクトに満ちている。
もしもマイクロソフトが、この新しい敵に対抗するために、MSNなどをWindowsに代わる、同社の新しい主軸サービスとして軸足を動かすようなことがあれば、コンピュータの世界はここ数年でまたドラスティックな変動の時代を迎えるのではないかと思われる。
そうした予感は、未来に対するある種の恐れのような、先の見えない不安を呼び起こす性質も備えているが、同時にコンピュータの歴史が新しい時代に差し掛かりはじめているのではないかという期待感もある。
残念なのは今回のインターネット・PC界の大変動の予感に際しても、名前の挙がるほとんどが米国企業であり、日本企業の名前があまり目立たないことであるが、GPSや携帯電話、ゲーム、IT家電などへのマイクロソフトの「侵攻」への懸念は、本丸を脅かすGoogleの勃興で、完全に棚に上げられたように思えることも確かだ。
そう遠くないところにある、「見たことのない未来」が動き出している胎動は、確かに感じるのだ。
【参考記事】
●「グーグルはマイクロソフトの脅威となるか」--ウェブで議論白熱(CNET)
●Googleの才気と狂気------Gmailから始まるナーバスな未来(BigBang)
●Google OS を妄想すると未来が見えてくる!?(Life is beautiful)
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