オーバーチュアを、日本ビデオニュース社が提訴---試練はマーケットが加えるべきであろう。
日本ビデオニュース社が、そのウェブサイトに掲載している内容が「特定の組織・団体への批判と見受けられる表現がある場合」に該当するとして広告の掲載を拒否されたとして、オーバーチュア社を告訴した。
その理由は、今年3月、日本ビデオニュースがヤフーなどの検索サイトにニュース社のサイトの広告文を掲載する契約をオーバーチュアと結んだにもかかわらず、「靖国参拝」「反日デモ」などの言葉を含む広告文の掲載拒否が増え、ついに、「特定の政治団体・個人を中傷する内容が見られ、ガイドラインにより判断した」という理由でサイト全体の広告掲載を拒否したということだと報じられている(毎日新聞)
(情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士より転載)
オーバーチュア側は,基本契約は存在せず,一回一回の広告キーワード申請がそれぞれ契約の申込み行為になると主張している。そこで,日本ビデオニュース社は,仮に契約関係がないとしても広告掲載を拒否したことは不法行為になるとする主張を行っている。
(同上)
現状では、検索連動型の広告はYahooとgoogleで独占しているが、日本ビデオニュース社では記事を検索エンジンに効率的に取り上げてもらう方法として、この検索連動型広告をサイトの宣伝における重要な施策として実施してきた模様。
日本ビデオニュース社は、その主張として3点を主張している。
1.日本ビデオニュース社のウェブサイトに掲載されているのは、記者会見や対談などの報道記事、報道ビデオであって、「特定の組織・団体への批判」と判断すべき記事、ビデオは掲載されていない。同様の記事が載っているパソコンテレビ「GyaO」(ニュースはTBSと提携)や朝日新聞Web版については「スポンサーサイト」欄に広告が掲載されており、違法性は明らか。
2.オーバーチュア社は広告の掲載に当たっての広告取扱基本規定と掲載ガイドラインを定めているが、日本ビデオニュース社のウェブサイトはこれらの規定が禁止するサイトには当たらない。
3.検索連動型広告システムはオーバーチュア社とGoogleの2社が独占している状態にあり、その公共性は高く、恣意的な運用は許されない。
(インターネット新聞JANJANより転載)
【 オーバーチュア審査・広告掲載基準 】
○ 薬事法等の関連法規に抵触するおそれのあるサイト
○ ツーショットダイヤル、ツーショットチャット、その他成人向けコンテンツを取り扱うサイト
○ 連鎖販売取引などのビジネスを推奨・紹介しているサイト
○ 宗教団体など、布教活動を行っているサイト
○ 個人情報の売買を行っているサイト
○ 銃器や催涙スプレー等、武器に相当する商品の紹介・販売サイト
○ タバコや脱法ドラッグ等を販売しているサイト
○ その他オーバーチュアが不適切と判断したサイト
(オーバーチュア審査基準より転載)
日本ビデオニュース社の記事について、詳しく目を通したわけではないが、要するにオーバーチュア側では、自社の検索連動型広告のクライアントとして、同社をふさわしくないと判断したということである。
このニュースの読み方はいろいろあると思うが、「日本ビデオニュース社のウェブサイトはこれらの(オーバーチュア社の)規定が禁止するサイトには当たらない」との主張は、オーバーチュア社側の規定の最後に「その他オーバーチュアが不適切と判断したサイト」との項があるところから見て、これを適用された場合、反論は難しいのではないだろうか。
また、検索連動型広告に「公共性が高く、恣意的な運用は許されない」という解釈も議論の分かれるところではあると思うが、検索連動型広告は、実質2社の独占になっているとはいえ、何らかの規制や許認可のプロセスを通じて、確立された独占ではない。市場の構造が「たまたま」そうなっているに過ぎないのであり、商業的な意味での独占が成立しているからといって、これらサービスに、公共性を事由に「恣意的な運用は許されない」とまで言う事も無理があるような気がする。
平たく考えれば、「靖国参拝」や「反日デモ」についていささか挑戦的に扱ったとはいえ、それを事由に広告掲載を拒否するとか、ずいぶんと○○の穴が小さい企業なことよとは思う。思いはするが、一方で広告掲載会社は、その広告主を自社独自の判断基準で選別する権利を、有していると思う。
例えば、新聞広告を掲載しようと思うと、必ず広告主はその新聞社から広告掲載基準を満たしているかどうかの審査を受ける。この審査基準は、必ずしもオープンにはされておらず、各社独自の基準であるが一般的には、当該企業の信用力、社会的信頼性、広告表現の妥当性(過剰な表現)などが審査されているようである。この基準に引っかかった場合には、例え広告料金を支払う態勢があっても、広告を掲載することはできない。
それにしては、この企業の広告ってどうよ?と思うような会社の広告が連日掲載されているのが新聞の広告の現状であり、逆に新聞社そのものの信用力の証にもなっている。
わかりやすい例を挙げれば、スポーツ紙は風俗やマチ金関連の広告で溢れかえっているが、全国紙にはそうした広告はほとんど見当たらない。
では、宗教団体の発行した怪しげな出版物の広告はなぜ掲載されているのかとか、このダイエット本の広告表現はどうよ?など疑問を上げればきりがないのであるが、そこをついて、「広告掲載基準」が新聞の「高い公共性から判断して」「恣意的に」運用されるのは許されないと訴訟を起こしたところで、おそらく勝利はできないであろう。
私企業である新聞社は、広告主との契約に関する選択の自由を持っていると考えられるからである。
したがって、オーバーチュア社の今回の広告拒絶は、その硬直した事業体質を情けないとこそ思えはするが、「公共性」を主張した訴訟のスキームにはなじまないのではないか。
さらに、「恣意的に」検索エンジンの順位が(広告と同様に)、主催者の主観によって恣意的に運用されるとすれば、その主観に沿わない記事や情報は我々の目に触れないことになるという方向から、今回のオーバーチュアの行為に警告を発する向きもあるが、実は我々の生きている社会は、ずいぶん前から「そうした恣意性」によって動かされているのであり、「何をいまさら」と思う。
こうした時代の傾向を歓迎するか、危険であると思うかの別は議論に値するであろうが、私企業に過剰な公共性を求めるのも、また別の意味で見当違いにならないか。商業主義とは効率的に金銭を稼ぎ富を増大させることを目的にして構築されているシステムである。我々の触れる全ての情報は、こうした商業主義のフィルターを通して、目の前にもたらされているわけであり、その善悪を問う姿勢は思想であって、評論であって、哲学であって、だがしかし直ちにそれが法的議論になじむとは思えない。
しかし、とは言ってもこの訴訟がなされたことでのアテンション効果には期待できるのであって、要は我々は我々の住んでいる社会の構造と限界に、はっきりとした自覚を持つべきであるということなのではないか。誤解されないように願いたいが、日本ビデオニュース社に黙れというのではない。契約基準に対して異議があるのであれば、どんどんネットに発信していくべきであり、堂々と反論すべきであろう。つまりオーバーチュアの掲載基準の妥当性には、マーケットで試練を与えるべきだと考えるのだ。法廷の場ではなくて。法廷をも戦略的に活用するというのであれば、それはそれで理解できるのだが。
オーバーチュアを、日本ビデオニュース社が提訴(2)---広告活動と表現の自由についてへ
【参考リンク】
○ビデオニュースドットコム、オーバーチュアを提訴(GripBlog)
○検索連動型広告運営会社(ヤフーの子会社オーバーチュア)を提訴~恣意的な広告掲載拒否を理由に(情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士)
○広告掲載拒否とSEO(yahoo seo対策 web2.0) ←視点が面白い
○★阿修羅♪サイトはヤフー八分になってます ←へー
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