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June 29, 2006

手塚治虫と時刻表

ここでは、無理して「手塚治虫」などとと書いたが、僕にとっては「手塚治虫」と呼ぶのは今でも抵抗がある。僕にとっては、あくまでも手塚先生である。手塚先生とは、20代のころに何年間か断続的に仕事をご一緒させていただいた。「ご一緒させていただいた」などというのは、ご推察の通り、背伸びもいいところで事実と異なる。

ある文化イベントの催事で僕が手塚先生の担当ディレクターになったのをきっかけに、それ以来いくつかの講演会で担当を勤め、日本各地に何度かご一緒させていただいた。いや、「下働きをさせていただいた」。イベント会社に勤めていた若いころのことである。

手塚プロの社長ともその関係で何度かご一緒したが、こんなことがあった。
初めての担当のときである。

ある地方で手塚先生の講演があり、先に現地入りしていた僕のところに、慌てた調子で手塚プロの社長から電話がきた。いつになくあせった口調である。聞けば、手塚先生と同行するつもりが一緒に来れなくなり、手塚さんが先に一人で来ることになったということ、そして東京を出る時間が遅くなったので、予定よりも遅い電車で着くが、駅まで出迎えに行ってくれないかとのことである。

手塚先生は言うまでもなく大家でVIPである。出迎えて間違いなくホテルまで案内するのも僕の仕事であり、それはいいのだが、何を慌てているのかと思えばおかしなことを言う。

「BBさん。手塚はめったに一人で動きません。。。というより動けませんから。くれぐれも宜しくお願いしますね。」

などと言う。・・・・・動けない?

????

何を言っているのかそのときは意味がわからなかったが、聞いた時間に駅で緊張しながら先生を待つ。あっさりと予定時間に、にこにこしながら手塚先生はあらわれた。ご機嫌な様子。なんだ、案じることはなかったと思い安堵しながらも、緊張してタクシーに乗り込む。

すると手塚さんは、後ろの席でおかしなことを言い始めた。一冊のポケットサイズの時刻表をひょいと掲げながら、僕にこんなことを言う。

「BBさん、ちょっといいですか?」

「はい?何でしょうか」

「僕はね、今日始めて時刻表というやつを見たんですけどね、」

「え?」

「この、教えて欲しいんですけどね。このたくさん並んでいる数字は何ですかね?・・・これって・・やっぱり電車の時間ですか?

「&%$&%'(()=)=)'(&'&%'(???]

「どうやって見るんですか。これ」

「あの、これが駅の名前ですね。で、列車の名前がこれ。到着時間と・・・出発時間がこれです」

「うん、うん・・・ああ!だからこれを見れば乗換えが出来るんですね!!」

「はい・・・」

まるでからかわれているようである。そんな僕をよそに先生は大事なことを聞くことが出来たかのように喜んでいる。

「そうかあ、僕ね、一人で電車ってほとんど乗らないのでね、時刻・・・ああだから時刻表って言うのかあ。面白い本ですねえ。これ・・どうもありがとう。」

新米ディレクターは相槌を打つ言葉もない。

僕はそれ以来、自分が何かとんでもない勘違いをしたり、当然知っているべきことを知らなくて恥をかいたときなど、意図的にこの話をする。天才手塚治虫ですら、時刻表を知らなかったという話である。そういうものなのだ、人間というのは。特に何かに集中している人間というのは、どこか抜けるところもあるのだよ、と。

でもいつも、相手からは必ず言われる。それは手塚治虫であり、天才だからこそ許されることであり、あなたが無知なのは単にあなたが無知なことでしかない。一緒にして語るなと。

確かにその通りだ。天才・手塚治虫であるからこそ許される話であり、その「無知」の対極にすさまじいまでの作品への執念と集中力があった。その現場も何度となく見せ付けられた。そのことを抜きにしてこの時刻表の話だけを語っては間違いになるだろう。

しかし、最近この話を思い出すたびに、果たしてそんなことが本当にあったのだろうかと、自分の記憶ながら、疑わしい気持ちに駆られる。いくら手塚先生でも、時刻表を知らなかったなどということが、あるものだろうか。

もしかしたら、手塚先生は僕をからかったのではないだろうか。

有名人の担当になり、全身でガチガチに緊張していた若造を、ちょっとリラックスさせようとして、からかったのではないだろうか。そう考えたほうがおさまりのいい話のようでもあり、安心できる話のようでもあり。

一方、あのときの手塚プロの社長の慌てようを考えるとやはり記憶の通りであったようにも思える。



手塚先生、本当のところどうだったのですか?

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Comments

 こんにちは。

 BigBangさんは手塚治虫先生と直接お話されたことがあるのですか!

 羨ましい…。

 サイン色紙にはどのキャラクターの絵を描いてもらいました?(仕事だってば)

こんばんは。ボクシングファンさん。

>サイン色紙にはどのキャラクターの絵を描いてもらいました?(仕事だってば)

そのあたりはまた別のエントリーで・・。

竹熊氏によると、↓とのことです。

>↑「手塚先生は一人で電車に乗れない」というのはよく聞く話ですが、知り合いの編集者には、手塚先生が一人で新幹線から降りてきたのを目撃した人がいます。

そのとき、その人、「なんだ先生、乗れるじゃないか」と思ったそうですが。

あと、手塚先生はお忍びでどこかへ行くとき、カツラがわりのベレー帽と、メガネを外して電車で移動していたという証言もあります。このふたつと、時には入れ歯も外したとか。こうすればまず誰にも正体が分からなかったそうです。

http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/post_b253.html

ども。SMさん。(なんとも・・なHNですね。)

まあ、僕が出迎えたときも御一人でおいでになったのですから、乗って乗れないことはないのでしょう。ですが、乗換えを間違えたり遅刻したりいつもとんでもないことになるのだそうです。

で、その理由は時刻表を見るということを知らなかったんですかね?

いやわかりませんが。(と書いた本人が言ってどうするという感じですが)

>なんとも・・なHNですね。

何を想像されているのでしょうか?
SMは自分の頭文字ですがw

大変に失礼いたしましたっ。

SMさん、うちでここのコメント使っちゃったんですが、もし問題ありましたら消すんでよろしくお願いします。
http://d.hatena.ne.jp/Ereni/20060701#p2

てことでBBさん、どうもでした。

ネタ化しないでください。w

いやですw

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