不二家の「ペコちゃん焼」についての、ちょっと風変わりな話
その頃のガールフレンドとは、よく高田馬場から新宿まで歩いた。ビッグボックスの横を通って、線路の下をくぐり、山手線の線路と付かず離れず、ずんずんと歩く。今だったら考えられないが、時間もあったし、体力もあった。何より、ずんずんと大学の帰りに歩くのが気に入っていたのだ。僕が、というより彼女がね。
で、ある日のこと。
いつものように山手線の下をくぐると、僕たちの前から歩いてきた、見知らぬ男。どちらかというと立派な身なりとは言えない彼が、「これあげる」と言うなり、すれ違いざまに茶色の紙袋を僕に押しつけた。
驚いて振り返ると、もう男はどんどん歩いていってしまっていた。
恐る恐る彼女と2人でその温かい茶色の紙袋を覗き込んだ。
「・・・・・・・・ペコちゃん?」
と彼女が言った。紙袋の中には、ほかほかのペコちゃん焼が3つばかり入っていた。ぺこちゃん焼きというものがあることを、僕たちは2人とも知らず、初めて実物を見たのだ。つまり見たこともない、ペコちゃんの顔が象られたお菓子としか見えない。
「なに?これ?・・・・・・」
「くれたんじゃない?」と僕。
「・・・・・どうしよう?」
その頃、確か道端に置いてあったコーラを飲んだ若者が死んだだか、病院に担ぎ込まれただかという事件が報道されたばかりで、僕たちはすぐにそれを思い出した。
「食べるわけにはいかないよね・・・やっぱり、これ。」
「そうだよね。怖いよなあ。」
で、僕たちはしばらく迷った挙句、勿体無いけれど、そのペコちゃん焼きを捨てることにした。そもそも、なぜ通りすがりの学生カップルに、ペコちゃん焼をあげなければならない?余ったのか?なぜ??自分が買って食べるつもりが、飽きたか多すぎた?3つも?
つまり総合的に考えてかなり怪しいペコちゃん焼きであったので(しかも見るのが始めてのペコちゃん焼はそのまま結構不気味であった)僕たちがそのまま、「いただきます」を避けたのは当然だったと思う。
僕たちは、そのペコちゃん焼をそっと路上に置いて・・・(いや、もうちょっとましな処理の方法もあったと思うけれど、とにかく逃げたかったんだな。この厄介なものから)立ち去ってしまった。
それでも、その後、そのペコちゃん焼を拾った誰かが食べてしまい、新聞に載るような「惨事」が起きなかったか、あるいは気の毒な犬がそれを食べて・・。僕たちはその日と翌日の新聞を隅から隅まで読んだ。どきどきしていたわけだ。自分たちのせいで、誰かがひどいことになったらどうしようとか思ったわけだが、何も起きなかった。
もしかしたら、あの男は純粋な親切心で、ちょっとばかり買いすぎたペコちゃん焼を、貧乏そうな学生男女にくれただけだったかもしれないと、今になったら思うけれど、まあそれでも食べるのは無理な状況だった。
あのとき食べ損なったペコちゃん焼を、もう一度食べるチャンスは来なかったのだが、この菓子が、不二家の神楽坂店でのみ売られていることを、今回初めて知った。
不二家の食品工場で作られているものではないため、この店ではしばらく販売を続けていたらしいが、ついに中止のやむなきに至ったらしい。
不二家飯田橋神楽坂店オリジナル商品のペコちゃん焼の販売を一時中止します
当店で製造販売している「ペコちゃん焼」は、飯田橋神楽坂店のオリジナル商品として、本社の原材料は一切使用せず、店内で製造販売してまいりましたが、不二家本体が社会的問題を引き起こした上は、不二家傘下のわたしたちの「ペコちゃん焼」も、製造販売を本日2007年1月15日より自粛することに決定しました。
何だか気の毒な気はする。
そういえば、僕は雪印の仕事を担当していたことがあって、あの雪印の惨事があったときに、こういうエントリーを書いたことがあった。ある種の「禍々しさ」についての、とりとめもない話であるが、ここでもペコちゃん焼にその禍々しさがあったなどと、因縁めいたことは言わない。言わないけれど、僕にとってはちょっと風変わりな思い出で、そして、何だかいろんな意味で、ちょっと印象深い菓子なのである。
それだけの話。
【加筆 1/26】
ここで作ったペコちゃん焼の画像追加。
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