「ドリームガールズ」---圧倒的な美と才能。いずれもが狂おしかった。
1960年代。シュープリームスとダイアナロスのサクセスストーリーをベースにしながらも、現実をおそらく超えるかもしれないドラマティックな映画に仕上がっている。「ドリームガールズ」は、かつてブロードウェイミュージカルとして1981年に公開された舞台の映画化である。
何といっても、ダイアナロスをイメージしたディーナの美しさ、そしてそれを演じるのが大スターのビヨンセと来れば、物語のフレームは出来上がってしまっていると、観る前には誰もがそう思うだろう。実際、ビヨンセ演じるディーナの美しさと言ったら、気が遠くなるほどである。売り出し前の、初々しい秘めた美しさを持った愛らしいティーンの時代から、センターに起用され、次第に自信を持ち、輝きを増していく、その「美人っぷり」と言ったら!人間とは思えない。溜息が出るというような紋切り型の表現では収まらない。何と言ったらいいのだろう。ビヨンセ!ビヨンセ!この人はこんなにも美しい人だったのかと、改めて見直した。目をこすったと言ってもいいかな。
ところがこの映画の更なる驚きは、この完璧とも思える世界の大スター、ビヨンセの美しさに対して、無名の、しかし途方もない歌唱力と存在感を持つ新人、ジェニ ファー・ハドソンを真っ向からぶつけているところである。彼女がアカデミー助演女優賞を取ったのは、うなづけるどころの騒ぎではない。圧倒 的なその歌!
彼女が演じるエフィーは、圧倒的な歌唱力でグループ「ドリームメッツ」のセンターをとっているが、遥かに美しさで勝るビヨンセ演じるディーナにセン ターを譲らされる。結果的にはこの思い切ったチェンジが功を奏し、ドリームメッツは、スターダムを信じられないような勢いで駆け上っていくのだが、エフィ の叶えられない自我はやがてエフィ自身を破滅に追いやっていく。そしてディーナも不幸が襲う。
ジェニファー・ハドソンの歌と言ったら!新人?いったいこの人はどこに隠れていたんだろうと思うぐらい。そして、ああR&Bという音楽はこんなにも格好良 く、しかも人の心を掴む音楽だったんだと認識させられる。ビヨンセのあの太陽のような圧倒的な美ですら、どちらかというと外見が地味で「太っちょ」のエフィの 大地のような存在感を、少しも損なうことはできない。映画上の2人の位置が、おそらく現実の、つまり「キャスティング」という意味で見たビヨンセとジェニファーの位置関 係にもなぞらえられるようで興味深い。つまり、この映画は、途方もない「美」と「才」とが、互いに「痛み分け」をしているのである。ビヨンセは、その美し さを限界まで発揮することによって、そしてジェニファー・ハドソンは、その歌の圧倒的説得力で大スタービヨンセさえ、かすめさせるほどである。彼女にこの場を与えた監督、ビル・コンドンは最大限に称えられるべきだろう。
2人の良さが、これ以上考えられないほどの緊張関係を作り出し、そうだな。音楽にかかわりがある、あるいは音楽を志向する全ての人が観るべき映画だと思ったよ。
もう一度言うけれど、R&Bとは、何とかっこいい音楽なんだろう。そして、人の能力の限界のなさというか、地平のなさというか、その深みと遠さに気が遠くなるようである。
映画を観終わったら、どういうわけか、しっかりとした文章を今年は書いていこう、どんな表現でも真剣にやっていかなければならないという思いになぜ かさせられた。仕事もね。そうだな。音楽という次元じゃなくて、おおよそ全ての「何かを創ろう」としている人たちにとって、必見の映画かもしれない。
観に行って完膚なきまでにうちのめされてください。
僕も、もう一度観にいくと思う。
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製作年度:2006年上映時間:130分監督:ビル・コンドン出演:ジェイミー・フォックス 、ビヨンセ・ノウルズ 、エディ・マーフィ 、ジェニファー・ハドソン 、アニカ・ノニ・ローズ 、ダニー・グローヴァーオススメ度:★★★★☆ストーリー:1962年、アメリカの自動車産業の中心地、デトロイト。エフィー、ローレル、ディーナの3人は音楽での成功を夢見て“ドリーメッツ”というグループを結成し、新人オーディションへの挑戦を繰り返していた。中古車販売会社のカーティスはそんな彼女たちに大きな可能性を見出...... [Read More]
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