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July 04, 2012

残酷と死んだ犬のこと ー「飯舘村の1年」 

しばらく前に録画してあったETVの「飯舘村の1年」という番組を見た。
放射線被害で全村避難となった飯舘村の1年の苦闘を追った番組だ。明るい希望へと向かって終わる番組ではなく、ただただ救われなかった。

南相馬に行くときに通過して行く飯舘村を始めて目にしたときには、その村は既にマスメディアで高放射線量の村としておどろおどろしく扱われていた。もう無人となったその村の人の生活していた証はかえってこちらの気持ちを緊張させ、僕はいつも息を止めるようにしてその村を通過した。

けれど、在りし日の村の姿を知らない僕にもわかることは、ここが本当に美しい村だということだ。慣れてくるに従って、飯舘の道に車を止めて、空気や空や雲を眺めた。車の中に転がってしばらくじっと眺めて、やがて「行かなければ」と出発する。

時折、無人の家につながれている犬を見ることがあった。大丈夫なんだろうか。誰か餌や水を持って来ているのだろうとは思うが、次々と走り去る車を目で追うようにしている犬の姿には心が痛んだ。

番組に登場する1人のじっちゃんがいた。その家にもやはり犬がいて、避難先には連れていけないのだろう。犬を残していた。犬は走り回れるように、長い鎖に繋がれていて、じっちゃんが帰ってくると喜んで鎖を揺らしながら走ってくる。じっちゃんとばっちゃんは、帰ったときには犬に牛乳のいっぱいかかったご飯をたくさんあげてくる。

「留守んときはドッッグフードだかんな」

とじっちゃんは言っていた。

あるとき、じっちゃんとばっちゃんが去って行く車を犬が走って追いかけている場面があった。どうしてつながないんだろうと思ったけれど、かわいそうだから自由にしてやったのかもしれないと思った。犬はどこへ行くでもなく、車が走り去った後、家の方へ戻って行った。

次の場面ではもう犬はいなかった。

花をかかえてじっちゃんが、山の方へ入って行く。犬が死んだんだとじっちゃんは、泣くでもなく淡々と言う。あるとき帰って来たら犬の姿が見えない。探しまわると、軒先で犬が倒れていて、もう息をしていなかった。首に傷があって血が流れていたそうだ。犬に何があったのかはじっちゃんにもわからない。とにかく死んだ。

じっちゃんは花を持ってどんどん茂みの奥に入って行く。怪訝に思って尋ねるカメラマンにじっちゃんが答える。

「家の近くは除染するから。。ひっかきまわすのもなんだべ。。」

家の近くを除染すると土を掘り返す事になる。犬の遺骸が掘り返されたのではかわいそうだとじっちゃんは言いたかったらしい。やがて「ここだここだ」と茂みのかなり奥にあるくぼみに、じっちゃんは花を置いた。

たまらないと思ってみていたが、じっちゃんは淡々としている。けれど、大事な犬だったはずだ。くぼみに置いた花をじっと涙も見せずに眺めているじっちゃんは、何だか悲しみもなにも限界を超えてしまった人のような表情をしていた。じっちゃんだけではない。映像に出てくる飯舘の人たちは、みなこのじっちゃんと似たような表情をしていた。絶望を何度も超えてしまって、悲しみも何度も超えてしまって、無表情になってしまったような、そんな表情だ。いつ、誰が思い切ってこの我々の世界から去っていってしまってもおかしくない表情だ。。

犬は何が起きたかわからずに死んでいったろう。なぜ突然1人にされたのか、主人が連れて行ってくれないのか。この村からなぜ誰もいなくなったのか。いったい何があったのか。

なぜ?なぜ?なぜ?

突然死んでいた哀れな犬のことばかりは言えない。じっちゃんだって、村の人たちだってきっと今でもはっきりとはわかっていないんだ。「なぜだなぜだ」と問いかける人々の姿を淡々と追った、やりきれない番組だった。


つい数日前に、大飯原発が再稼働した。僕は考える。稼働を決めた人々もこういう番組を見る事があるのだろうか。この惨状を目にしても、それでも原子力発電所を動かす、この惨状が再び繰り返される可能性を無視しても、あえて動かす。それはそれなりの彼らの論理もあるのだろうと考えてみるが、僕にはどうしても、その者たちの心に自分の心を重ねる事ができない。

残酷である。
けれど僕たちですら、この1年。
多くの残酷を見すぎて心を麻痺させようとしているような気がする。


あれほどじっちゃんは犬を葬る場所を気にしていたけれど、飯舘村の除染はまだ始まっていない。


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Comments

初めまして、飯舘の住人です
NHKスペシャル私も拝見いたしました
同感する点、異を唱える点たくさんありましたが
メディアを通じないと皆さんへ伝えられないのも
実情です・・・
また取り残された犬や猫ですが日本各地から給餌ボランティアが飯舘村を回るという矛盾が発生しています・・・
何故飼い主が管理しないで村外の方が管理するのか?
下に数人知っている方のHPを載せましたので
見てやってください
http://ameblo.jp/mewpoppo/
http://ameblo.jp/keirinman1/
http://ameblo.jp/bon-bon-boon/

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